オヤジ達の白球 46話~50話
「ホームセンターで買った、マウンテンバイクの形をしている安物だ。
よく見たらオフロードは走行禁止というステッカーが貼ってあった。
ま、2万円以下の自転車じゃこんなもんだろう」
「答えになってねぇぞ。面白いのか、こんな日に自転車に乗って?」
「日曜日だろ今日は。やることがねぇから自転車に乗っている。
ただそれだけのことだ。
そういうお前こそどうなんだ、なんでこんな場所で暇をつぶしているんだ?」
「暇をつぶしているわけじゃねぇ。見守っているんだ」
「見守っている?。いったい何を見守っているんだ?」
「あれだ。あれをぼんやり見ているだけだ」
指さす先にテニスの壁打ち用の、コンクリート塀がある。
そこでひとり。男が壁に向かってボールを投げつづけている。
「どこかで見たおぼえの有る男だな。
大切なデビュー戦で敵前逃亡しちまった坂上か。あれは、ひょっとして?」
「大当たりだ。その、ひょっとしてだ」
「なるほど。四球の山に嫌気がさして、投手を挫折したのかと思っていたが、
いまでもまだ投げていたとは驚きだ。根性だけは有りそうだな。
だけどよ。いちど逃げ出した投手を使ってくれるのか、うちの監督は?」
「聞くだけ野暮だ。
無理だろうな。坂上の奴、いまだに店にも顔を出さないそうだ。
そんな男にチャンスなんかくれないだろう。ウチのチームの、ド素人監督は」
作品名:オヤジ達の白球 46話~50話 作家名:落合順平