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⑥冷酷な夕焼けに溶かされて

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忍の能力


掠れたあどけない声と同時に、黒装束の男性が現れた。

「芬允!おまえ、どうしてここに…。」

予定外だったようで、珍しくマル様が驚いている。

「僕だって、上忍です。」

言いながら、フィンは手早くテントを片付けた。

「いくら叔母上がすごい忍だと言っても、ひとりで素人を連れてこのルートを越えるのは危険だと思ったので、フォローに来てあげました。」

(え?)

テントがなくなり開けた辺りを見回せば、私たち以外誰もいないことに気づく。

「ルイーズは…?」

てっきり別のテントにいるのだと思っていた私は、焦ってフィンとマル様を見た。

「彼は大柄なので、このルートは無理です。多少時間が掛かりますが、軍を率いて、迂回ルートで父上や叔父上達と一緒にルーチェを目指してます。」

「…。おまえも、そちら側だったはずだが?」

淡々と教えてくれるフィンを、マル様は睨むように見上げている。

「ちゃんと父上…頭領の許可も取っています。」

ニコッと笑顔を浮かべるフィンを、なおもマル様は厳しい表情で見つめた。

そんなマル様から視線を逸らすと、フィンは唇をきゅっと噛みしめる。

「…そんなに睨まないでください。
あの時の、ミシェル様の瞳が忘れられないんで、挽回したいんですよ。」

「あの時?」

私が訊き返すと、フィンが暗い瞳を私へ向けた。

「…助けに行った時、です。
僕のいる天井を見上げて首を横にふった橙の瞳…。
自分は酷い目に遭わされてるのに、僕に逃げろと合図したあの瞳が…。」

(ミシェル様!)

「いくらひとりではどうにもできなかったからといって…主を置いて逃げる忍なんて…」

5歳の頃から、フィンはミシェル様のおそばに仕えていた。

きっと主従とはいえ、まだ子どものふたりは心を交わしながら共に成長したのだろう。

そんな相手を守れなかったその後悔は…計り知れない。

私は、自分より少し高い位置にある黒髪に手を伸ばした。

「違うわ、フィン。」

私は背伸びして、その芯の強い黒髪を撫でる。

「ミシェル様はあなたを逃がしたのではなく、あなたに星一族への繋ぎを任せたのだわ。」

「…繋ぎ…?」

私の耳元で、フィンの低い声が聞こえた。

「そうよ。それは、あなたにしかできない仕事だもの。」

私は大きく頷くと、頭を撫でていた手を下ろしながら微笑む。

「ミシェル様は、合理的な方だから。
あなたが助けられないと判断するような状況ですもの。
ミシェル様は、なんとか星一族に繋ぎを取りたかったのだと思うわ。
だから、フィンは忍としてミシェル様の指示を遂行したってことなのよ。」

「…そんなの、詭弁ですよ。
どう言い繕ったって、僕が『逃げ出した』と自分で思ってるんだから。」

「じゃあ、逃げるが勝ち、ってことじゃない?」

「は?どのへんが勝ってんの?
今現在、なにひとつ勝ててねーじゃん!」

いつも通りのやりとりに、私は思わず小さく吹き出した。

すると、フィンもつられるように笑う。

そんな私達を、マル様はジッと黙って見つめていたけれど、小さく息を吐いた。

「わかった。
その代わり、手助けはしない。
自力でついて来なよ。」

「はーい!」

頭領の顔になったマル様にも怯むことなく、フィンは軽い返事をすると、私の腰に目を留める。

「その剣、山越えには邪魔になるので、僕が預かりますよ。」

「あ!これは」

腰から引き抜かれそうになった剣の鞘を握って止めた瞬間、「カチッ」と金属音がした。

それは左手の薬指から聞こえ、ふと嫌な予感がする。

恐る恐る左手を目の前に掲げてみて、愕然とした。

そこには、ルイーズに返したはずの指輪が光っていたからだ。

「いつの間に…。」

言いながら、倒れる直前に聞こえたリク様の言葉を思い出し背筋が凍った。

『では、早速。今ここで、お二人には結婚して頂きます。』

「もしかして…意識を失っていた間に…。」

私は急いで、その指輪を外そうとする。

すると、マル様が私の手を、黒い手袋越しに包み込んだ。

「これは、ミシェル王からです。」

「…ミシェル様から?」

マル様は頷くと、私の腰から銀の鞘を抜き、ある箇所を指差す。

「その指輪の宝石(いし)は、ここから取られたものです。」

「!」

たしかに、剣を彩る装飾の宝石がひとつ、外された跡がある。

しかもその宝石は、ちょうど帝国の紋章の中央に位置していた。

まるで象徴のような、宝石。

「この剣を預かるときに、これを外してルイーズ殿との結婚指輪を作るよう、依頼されました。」

(覇王様からの守り剣の、しかも象徴のような宝石を、ルイーズとの結婚指輪に…。)

私はその指輪ごと、ぎゅっと胸に抱きしめた。

「ミシェル王がルイーズ殿との婚姻をここまで望まれたのには、何か意味があるはずです。
だから、そのままつけておいたほうがいいと思いますよ。」

説得力のあるその言葉に、ぐうの音も出ない。

項垂れる私に、マル様は銀の剣を背負わせる。

「山越えの間は、こうしておいてください。」

「…さ!暗くなる前にデュー側に辿り着かないといけないので、行きますよー!」

すっかりいつもの調子を取り戻したフィンに引っ張られるように、私は険しい山へ歩きだした。