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夢幻圓喬三七日

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「はじめまして、清水美代子と申します。今日はお車を貸していただき、ありがとうございます。これ途中の海ほたるで買った物です。お口に合うと良いのですが……」
 父が「こっちか」母に囁いている。母は父のお尻を抓(つね)りながら、
「どうもすみません。こんな車ですからお気をつかわなくてもよろしいのに……」
「そうですよ。ボロ車ですし、誠の運転じゃ怖かったでしょう。私と違って下手ですからね。ハハハ……」
 父はそう言って、後部座席のティッシュが使われていないかを視線で確認していた。清美さんも車のお礼を伝えている。美代ちゃんの隣だと目立たないが、よく見ると可愛い人だ。ハハハ……。
「柴田さんに今朝いただいたチーズも美味しかったですよ。焼いて磯辺巻きにして食べると太陽のように旨いですね。磯辺(くろべ)の太陽。ハハハ」
「食べ方を知ってたの? 朝はバタバタして伝えられなかったんだけど」
 僕の疑問に母が答えてくれた
「中にレシピが書いた紙が入っていたわよ。その通りに作ったら美味しいの。びっくりしちゃった」
 僕の隣で「店長、やっぱり只者じゃないわね」美代ちゃんのつぶやきが聞こえた。

 商店街で清美さんと、途中のJRで美代ちゃんと別れて、師匠と二人でマンションに帰る。

 コンビニでレシピのお礼を伝えると「少しはお役に立ちましたか」店長の嬉しそうな声が返ってきた。
 海ほたるで買った朝捕れ生しらすとイワシ薩摩揚げをつまみに日本酒を飲んで、長いドライブの疲れを癒す。今もそうだが、帰りの車中から師匠の口数が極端に減った。旨そうにつまみとお酒を交互に口へと運んでいるが、僕には何か上の空に見える。やっぱり幼稚園の事が気になっているのかな?
「何か落語聴きますか?」
「いや、噺を拵えるからこのくらいにしておくか」
 そういって和室へと籠もってしまった。和室の襖が師匠と僕のあいだを分断する城門に見えてしまう。
 美代ちゃんは活躍したけれど 僕は運転以外に何の役にも立たなかった十八日目だった

作品名:夢幻圓喬三七日 作家名:立花 詢