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夢幻圓喬三七日

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「それはあたしには分からないんだけど、上等貸座敷だからお偉いさんも揚がってたしね。そのあたりじゃないかとは思うんだけどね」
「角海老って大籬(おおまがき)ですよね」
「明治の始めからは、籬って言葉は使わなくなって、貸座敷になったんだよ」
「そうなんですか。知りませんでした」
「おまえさんが知らないのも無理もないさ。あたしだって佐野槌は知らないんだから。吉原へ行くようになったときには、もう佐野槌はなかったんだよ。おっと、吉原へ行くっていっても、仲にある寄席へ行ってたんだぞ。勘繰りなさんなよ」
 ほんとかな? まあ、そういうことにしておこう。
「それで、圓朝師匠はどんな悪戯をしたんですか? 他のお弟子さんたちは気づかなかったんですか?」
「あたしは上方から帰って来て、向こうで仕入れたさん馬さんのを、師匠に聴いてもらったんで、師匠が拵え直したのは聴かせてもらったんだが、他の弟子は聴いてないんだよ。師匠も寄席では一度ぎりしか演ってないしね。稽古をつけるときは、新聞に載ったのを教えていたはずだよ」
「圓喬師匠の文七元結はどんなふうに演ったんですか?」
「一度だけ師匠が拵えたまんまのを演ったんだけど、師匠に叱られたよ。気持は嬉しいが、そうやってお前(まい)が敵を作ることはないってね。それからは新聞のやつにしたんだよ。贔屓がいるときは佐野槌で演ったけどね」
「圓朝師匠の正しい文七元結は、どこが違うんですか?」
「それは落語会のお楽しみにしておこう。あたしも少し復習(さら)わないといけないからね。それよりも先ずは、幼稚園の方の噺を拵えないとな」
「どんな噺を拵えるんですか?」
「これから考えるよ」
 師匠はそう言って和室へと消える。
 最後の落語会の日が来て欲しいような 欲しくないような十七日目だ

作品名:夢幻圓喬三七日 作家名:立花 詢