サイレントワールド
「ここよ」
そこはかなり分厚い鉄のドアがはめ込まれていて、私を圧倒させた。まるで牢獄を連想させるような……研究者がドアノブをガチャッと開けるのではなく。
ギギギ……。
思わず耳を塞ぎたくなるような音で牢獄のごときドアを開いた。入室した途端に察知した。
『違う』
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う……。
私の入室した部屋というのは部屋全体がミラー張りの空間だった。床も、天井も、壁も。窓など無い。歩くだけでミラーのような壁が渦巻く。私を吸い込むように、私が動くたびに渦巻きは濃くなって、虹色に変化する。そっと、ミラーの中央に触れてみると。そこにだけ更に濃くぐるぐると渦を巻きはじめる。放すと戻る。嗚呼、宇宙というのはこういうところなのかも知れない。案外手に届きそうで届かない所に存在する、そんな場所。安心、そう思った瞬間だった。気付けば研究者は見当たらなかった。どうやら他の部屋で、私を観察しているらしい。
『ドウカシラ? コノクウカンハ』
……声が、異常だった。まるでヘリウムガスを何百個も吸い続けた人のボイスのようだ。
『ミラーノオカゲデ……』
厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌厭嫌……。
『……チョット?』
そう、此処は違う! 音が聴こえている!