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サイレントワールド

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私は無音空間という未知なる空間をずっと望んでいた。己の息遣い、人の歩行音、食べる音、話し声、足音……全ての存在する音を。遮断し消し去る空間というものを。そこで、私は誰も聞いたことが無い新たな音を作り出したい。だがそんな理想郷(ユートピア)はパラダイスにしか存在しないと思っていた。
 私は改めてこの醜い世界に息づいて気付くことがあった。それはこの世界にはありとあらゆる、それも人間にも気付かないほどの音という音が蔓延されていて。でも人間は都合よく出来ているから聞こえないだけ。でも私は聴こえてしまう。それは時に人の断末魔、喘ぎ声、泣き声、笑い声……。人の醜い部分が空中にたくさん浮遊している。私が必死に耳を塞いでも塞いでも塞いでも。それによって耳が変形しようとも、私は厭わなかった。
 ただ音を、遮断したかった。それだけ。人間ほど醜い音を無意識に生み出してしまう動物は。今までに、いや、永遠に居ないだろう。私は、その人間というジャンルに産み落とされてしまった。これは私の永遠の恥に値していると思っている。だからこそ私は、音を作る。これから先、誰もこの曲には敵わないと言われ続けるような……。

「どうしてもですか……」
「はい。どうにか出来ませんか?」

 此処は、郊外から外れたとある研究所。一見、二階建ての、蔦が自由奔放に建物に絡み付いた古びたマンション。ただの廃墟に見えるが、ここは知人の紹介で辿り着いた最後の駆け込み施設。さまざまな音の研究をしているようなのだが。結局の所細部までは詳しくは教えてはくれなかった。でも、私には何となくわかる。おそらく、この研究者と私の行き着く先は同じだということが。  胡散臭い研究者は。この建物から外に出ることはあまり無いというから、肌は気味が悪いほどに青白い。それなのに、丁寧に散髪されている髪、皺、染みひとつ無い白衣は。私に清潔という言葉を連想させる。とりあえず、少しはまともなのだろうか。そんな新品同様の真っ白な白衣に身を纏った研究者は。私の頼みを俯きながら聞いた後、私を一瞥した。  その目は明らかに私を疑るような、鋭さの中に私を見極めようとする目だった。私はその視線に負けないよう、キッと研究者の眼球を視線で潰すように睨んだ。一瞬、研究者の瞳が揺らいだ後、ふうと溜め息を零して。独り言のように言った。 「出来ることでもないわ。でも、やっぱり……」

 その後を言いかけた途端、何かを思いとどまったように口を閉ざし、首を横に二度三度振った。

「気にしないで。案内しましょう」

 私は嬉しすぎて、彼女の次の言葉を追求しなかった。
作品名:サイレントワールド 作家名:狂言巡