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ショートショート集 『心の喫茶室』

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ー14ー 伝言板


 以前はどこの駅にでもあった伝言板。携帯電話が普及した今ではもう、お役御免となってしまったのだろうか。
 地方都市の外れに住んでいた私の最寄り駅にも、チョークで書かれた伝言板があった。
 花火大会の晩、中学生だった私は友だちと駅で別れ、父の迎えを待っていた。そんな時間を持て余していた私の目に、伝言板が止まった。そして、いたずら心で架空の伝言を残した。
 
「今日は行かれない    小夜子」
 
 思いっきり大人っぽい名前を考えて書いた。
 
 数日後、叔母たちが遊びに来るというので、駅に迎えに行くことになった。やってきた叔母や従兄弟と駅を出ようとした時、何気なく見た伝言板を見て驚いた。以前私が書いた架空の伝言に、なんと返事が書かれていたからだ。
 
「残念だけど、また今度    浩次郎」
 
 その日から、浩次郎という名前が私の頭から離れなくなった。
 
 
 やがて高校生になった私は電車通学となり、駅が生活の一部になった。そして毎日のように伝言板を見つめた。
 存在しない小夜子の伝言に、今日も返事が書かれている。いったいどんな人だろう?
 嘘をついているという罪の意識より、好奇心が勝った。
 
 卒業が近づいたある日の放課後、教室から外を眺めていると、クラスのひとりの男子が近づいてきた。
「もうすぐ卒業だな」
「そうね」
「東京の大学へ行くんだったな。じゃあもう、伝言板書けないな」
 私はえっ! と驚いてその子の顔を見た。
「もしかして浩次郎って……」
「ああ、俺だよ」
 すました顔で言い放ったその男子生徒に、私は苛立ちを隠せず聞いた。
「いつから知ってたの! 私だって」
「中学生の時、たまたま伝言板に書き込んでいる君を見かけたんだ。大人びた名前とのギャップで、すぐにいたずらだとわかったよ。それにしても、クラス替えで君を見た時は驚いたよ。まさか同じ高校の人だったなんて」
 私は今驚いている、それにしてもなんでもっと早く教えてくれなかったの! と言おうと思って思いとどまった。知ってしまったら、夢は砕け、クラスメートとして気まずい二年間を過ごしただろうから。
 
 卒業後、私は東京で大学生活を送った。楽しい四年間はあっという間に過ぎ、仲の良い友だちはそれぞれ就職し、OL生活に入った。彼女たちとの別れを惜しみ、私は実家を手伝うため故郷の駅に降り立った。懐かしいあの伝言板もそのままだ。
 あっ、ふと目に止まった伝言に、私は驚いた。
「お帰り、小夜子さん  浩次郎」
 そして、駅前には高校のクラスメートだったあの彼が、車の横に立っていた。
「久しぶり」
 私はその馴れ馴れしさに、いぶかしげに尋ねた。
「まさか、わたしを待っていたわけないわよね?」
「そうだよ、迎えに来たんだ。君が東京から戻ってくると小耳に挟んで、家の人にいつか聞いて待ってたんだ」
 私は目が点になった。高校を卒業する時だって、大学生活4年間だって、一度も連絡を取り合ったことはない。もちろん彼氏なんかであろうはずもない。なのになんで?
 
 車中での会話
「待ってたってどういうこと?」
「若い男が若い女性を待ってたってことさ」
「あれから、と言ってもあの時も何もなかったけど、そもそも、それならなぜあの時何も言ってくれなかったの?」
「東京へ行きたがっている君を引き留められるわけないだろ? それに東京を十分楽しんで、それで故郷の良さに気づいてほしかったんだよ」
「四年よ。東京で私に彼氏ができるかもしれないと思わなかったの? それって、私には魅力がないからそんな心配はないってこと?」
「その逆さ。でもまあ、そうなったらその時また考えようと思ってた」
 
 翌日、私は颯爽と自転車をこぎ、駅へと向かった。もちろんあの伝言板の元へ。そして、最後の伝言を書いた。
 
「今度の花火大会、楽しみにしてます  みき」