L K 3 「フェニックス」
最終話 刺激的な現実
「受信状況は順調か!?」
デヴォス少佐は、PCに直接接続された無線機を前に、大声で確認した。
「何のデータか判りませんが、まだ進捗は2%です!」
「完了までどれだけかかる?」
「判りません! 30分以上かかりそうです。通信が途絶えたら、計算しようがありません」
「この通信に人類の命運がかかっている。感度を調整し続けるんだ!」
「マダム・スー、送信はうまくいってる?」
「ええ、圧縮転送されておりますが、通信状況が不安定でございます」
「二ール! 電波を強化する方法は無い!?」
「補助アンテナがある。通信士、アンテナはどこだ!?」
敵に応戦していた通信士は、中腰に立ち上がり
「あのザックに、(★ダンッ)うあっ!」
その瞬間、彼は肩を撃たれ仰向きに倒れた。
「しっかりして!」
「うう、アンテナを・・窓の近くに」
彼は指差した。私はその方向へ、銃弾の飛び交う床を這って、ザック(袋)に近付いた。途中、ケニーが這って出てきた。
「僕が取ってくる」
「あなた大丈夫? 出来るの?」
「ああ、僕だって男だぞ」
「アンテナを立てるのよ!」
「よし! うああああああああああああああああああああああ!」
(うるさいって。それじゃ自分を狙えって、敵に言ってるようなもんじゃない)
ケニーは大声を上げながら、ミミズのように床を這って、アンテナの入ったザックにたどり着いた。そして中の通信ケーブルを引き出し、そのコネクタープラグを私の方に投げた。
★ダダダ! ダッダン! バラババラババ! ダダダダ・・・!!!
敵の射撃がケニー周辺を襲った。
「ケニー!」
「大丈夫だー! 早くそれを無線機につなげろー!」
「言われなくったって・・・」
私は、ホロチャンバーに再び飛び込んだ。飛び込み前転で。
(私、いつからこんな身軽になっちゃったのかしら?)
その私を見ていたニール軍曹と目が合った。彼は、(やるな)という表情をして、ウインクした。
「あとどれくらい? マダム・スー」
「・・・あ・・・・ま・・・で・・」
「マダム・スー!」
「は・い・・・転送トラ・ブル、早く・・・・あんt・ナを・・・」
「ケニー! アンテナを早くー!」
「ダメだ! この位置じゃ、敵の標的になってしまう」
確かに、あそこじゃ電波を遮るものが何もない代わりに、アンテナを狙い撃ちされたら、元も子もないわ。ニールが立ち上がり、
「俺が援護する。7人付いて来い! アンテナを密集陣形で守るぞ!」
8人の兵士が一斉に走って、窓際に移動した。なぜか私も、咄嗟に彼らに付いて走った。当然の集中砲火を潜り抜けられたのは6人だけ、私は窓の壁まで滑り込んで、ケニーのいる柱の陰から振り返ると、3人が途中で倒れ、更に撃たれて動かない。それを見たケニーは、目を瞑ったまま、また震えが止まらないようだ。
「アンテナを立てるのよ! ケニー! 組み立てて!」
「ああ、ダメだダメだダメだ。僕には出来ない」
「大丈夫よ。ニール達が守ってくれてる。あなたも努力して」
「ムリだムリだムリだ。僕には出来ないよ!」
ケニーは目を瞑ったまま、頭を激しく振った。
「ケニー! 見て! 私を見て!」
私は彼の顔を両手でつかんで話した。
「私達には子供がいるの。現実の子達じゃないけど、私がプログラムした世界に、私達の子供達が暮らしてるのよ」
ケニーはようやく目を開けて、私を見てくれた、恐怖におびえるその瞳は、私の理想としていた彼の眼差しとは全然違ったけど。
「こども?」
「そうよ。彼らは幸せに暮らしていたわ。私が作った世界に対して、私は責任を持ちたい。あなたは自分が引き起こした、この世界のトラブルを解決することに、責任を持ってちょうだい」
ケニーは床に視線を落とし、黙って考えているようだ。
「リズ! ケニー! 早くアンテナを! (★ガン!)あうっ!」
「ニール!!!」
ニール軍曹は胸を撃たれて、よろめき倒れ、一瞬私の方を振り返った。胸に着いた弾痕から、うっすら煙が見える。
「大丈夫だ、防弾ベストだ。俺達が盾になるから、早くしてくれ」
それを見たケニーが、アンテナを組み立て始めた。私も急いでそれを手伝ったけど、そうしてる間に、兵士が一人、また一人、被弾して倒れていく。ホロチャンバーを守る隊員も、同じように数が減っていった。
「これじゃ間に合わないわ」
私はマダム・スーを見た。・・・? 彼女が手招きをしている。何か言いたそうだわ。私はまた銃弾の飛び交う中を、ダッシュでホロチャンバーに駆け戻った。
「どうしたの?」
「アナログ・・通信で・・は、間・に合わ・ないので・はございま・・・せんか?」
「あとどれくらいかかりそう?」
「まだ、14%・です。この・・状況では、何時・間かかる・・・か不明でござい・ます」
「ああ! どうすればいいの!」
「私が・・アンドロイドに直接・話しか・・けられれば、よいのでご・ざいますが」
「直接? 大声でも出すっていうの?」
「もっと・・大きな声・が出せるとよろ・・しいのですが」
(大きな声?)
ふと・・・思い付いた。そんなことが出来るのかどうか分からない。でも、もう時間がない。
「・・・アナログはやめよ」
「では、・どのように?」
「デジタル通信に切り替えて!」
私はまた、ケニーのもとに走った。ケニーはまだアンテナを立てられずに、奮闘している。
「ニール! 一か八かの賭けよ!」
「何をしようって言うんだ!」
私はケニーのアンテナの通信線を引きちぎった。
「リズ、なんてことを・・・」
ケニーは驚いた顔で私を見上げた。私は間髪入れず、その彼に飛び付いた。
「なるほど、そう言うことでございますのね」
「どいて! どいてどいて!」
私はケニーに抱き着いたんじゃない。彼の後ろの壁、そこにあるコンセントに用事があるのよ!
ビル全体に張り巡らされた電源ケーブル。今電源は落ちていて役に立たないけど、だからこそ使えるはず。私は引きちぎったアンテナ線の心線を、コンセントの穴に突っ込んだ。
「そ、そうか! PLCコンセントLANか! 君は天才だリズ!」
ケニーが叫んだ。
かつて、コンセントからつながる電力線を、ネットワークの通信回線として利用する技術があった。コンセントは元をたどれば、世界中の電力線につながっているわ。それに、この高層ビル自体をアンテナにして、強力なデジタル電波を発信すれば、世界中のアンテナが中継するはず。なにせ電源は熱核反応電池。超強力よ!
「行ってちょうだい! マダム・スー! 妨害される前に!」
「承知致しましたわ。“エル”」
その戦術、感情を持つマダム・スーがワクチンとなり、瞬時に全世界に拡散して行った。フェニックスにいたロボット達は、その瞬間動きを止め、PTCにいたメカロイド達も攻撃を止めた。
突然の静寂に、負傷した兵士達は、安堵することなく、身構えたまま待機している。リズはゆっくりと静かに立ち上がり、誰も動かないフロアを恐るおそる歩いた。まるで、一時停止したホロシミュレーションの空間にいるような錯覚を覚えながら。そしてホロチャンバーの中で、首を傾げてじっと動かないマダム・スーを見詰めて、暫く待った。
作品名:L K 3 「フェニックス」 作家名:亨利(ヘンリー)



