L K 3 「フェニックス」
第十話 信頼の崩壊
(このホロプログラムすべてを削除すれば、現実世界でのマザー・スーの暴走は止まるだろうか?)
いいえ、すでにマザー・スーは、ホロプログラムを抜け出してしまっているはず、効果はないと思う。このホロチャンバーの電源が落ちて、停止していたにもかかわらず、全世界にマザー・スーが広がっているのがその証拠。“マダム・スー”というキャラクターの一部が抜け出して、“マザー・スー”になったのかしら。
シミュレーションプログラムは、初期化せず“継続”を選択したから、ホロチャンバー内ではどんなプログラムが実行されて来たのか、調査を続ける事が出来たけど、そのことで事態は大きく変わることになった。私にとって、予想もしなかった事実が判明した。
「こ・これは・・?」
こんなこと知りたくなかった。いいえ。無視はできない。私が直視しななきゃならいない事態だわ。
そのホロプログラムファイルにあったデータ・・・それに付いて私は、ハッキリと見覚えがある。私のシミュレーションゲームに出てくる、架空のアンドロイド“SS3000シリーズ”のものとあまりにも似ている。
(これは、私が作ったプログラム。でもどうしてそのプログラムが世に出ているの? あれは個人的に楽しむために作った、ただのゲームだったはずなのに。あのケニーとの恋愛シミュレーションは・・・)
世界初のバイオロイドの開発って、私の恋愛シミュレーションゲームのデータが使われてるって言うの!?
私のアイデアが盗まれているわ! それって何よ! だって、その仮想空間には、私の秘密もあるんだ。誰かにイタズラされたらイヤだもの。それにケニーやデヴォス少佐をデザインしたキャラクターがいることも、皆に知られたくないもん。でも、でもでも! もう秘密になんか出来やしないわ!
この発見をすぐに、二ール軍曹にだけ報告した。ケニーには相談しなかった。なぜなら彼を対象にした恋愛を、こっそり楽しんでいたなんて知られたくなかったから。当然でしょ。
「お手柄だよ、リズ。君じゃないと、このバイオロイドとの関連性に気付けなかっただろう」
「でも、それは内容を見てもらったらわかるように、私個人のPCにしか保存していなかったデータファイルなんです」
「それがどうして、利用されてしまったのか。つまりこう考えられないか? 君のPCを何者かがハッキングして、そのプログラムを盗み取った」
「そんなはずは、このPCはもう2年以上、家のクローゼットの中に放置していたんですよ」
「それ以前は? どうしていたんだ?」
「仕事に使っていました。オフィスに置いていたけど、セキュリティは万全で私のプロテクトが破られるはずがありません」
二ール軍曹は顎に手を当てて考えている。その間に私もデータファイル流出の原因を推察した。
(まさかね。そんなことあるはずない)
私はひとつの可能性を思い浮かべていた。でもニール軍曹も同じことを考えたようだった。
「ハッキングされたのではないとしたら、どうだろう?」
「オフィスの誰かが、盗み見たってことでしょうか?」
「そのPCのログインは、静脈認証か網膜認証なのか?」
「いいえ、生体DNA認証ですから・・・」
「生身の君しか扱えないわけか・・・じゃ、他に何か心当たりは?」
「ないことはない・・かな・・」
毎日一緒に働いていれば、私が席を外した時に、盗み見することなんか簡単だわ。隣で仕事している人物なら、なお更のこと。
(ああ、うかつだったわ。まだ私の秘密情報管理意識が低かった頃だわ。PCをログアウトしないで席を立つことが多かった。きっとそんな時に、データを盗まれていたんだ。私、トイレ長いから・・・)
私はこの事態に冷静ではいられなかった。彼のことが信じられなくなりそうで不安だったけど、確かめなくてはならない。その相手はケニー。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「実は君のPCから、盗んだんだ。本当にすまない」
ケニーがニール軍曹に呼ばれて、意外に素直に白状した。彼なりに事の重大さを解っているようだわ。
「私のPCを勝手に見ていたってこと?」
「そうなんだ。すまなかった。君の才能がうらやましくて、プログラム開発のヒントを得ようと思ったんだ。でも、これだけは信じてくれ。悪用する気なんかなかった。そのシミュレーションゲームに、僕がキャラクターとして登場するを見付けて、君の気持ちを知ってしまってからは、僕も君のことが。解ってくれるだろ。リズ」
「何言ってんのよ! 気色悪い!」
私はケニーの頬を思いっきり殴り飛ばした。その腕立て伏せで鍛えてた腕力で、ケニーは床に倒れこんだ。
「犯罪よ犯罪! 上司のすることじゃないわ。まさか盗聴や盗撮までしてないでしょうね!」
二ール軍曹が止めに入った。
「ケニー、インフォン社はリズが作ったプログラムを使って、一体何をしていたんだ?」
「社はこのPTCで、3Dキャラクターを育成して、現実とのギャップを計算するデータ取りを行っていた」
「私に内緒で勝手にそんなこと。そのおかげで、マネージャーに昇進できたのね!」
「すまない。リズ。社の命令だったんだ。決して計画していたわけじゃないんだ。こんなことになるなんて、想像もしていなかった」
「そのプログラムが、どうやって現実に影響を与えてるって言うの?」
「数々のシミュレーションプログラムを作ったが、リズのプログラムは特別だった。ストーリーに行き詰ることなく、自由に展開し続けていたから、終了させずにバックグラウンドで延々と継続させていたんだ」
「では、その仮想現実の世界で、現実の脅威となるプログラムが、発生してしまったと言うんだな」
ニールが冷静に確認するように訊いた。
「恐らくそうだと思う」
ケニーは目線を合わせず、頷いた。
「それを知っていながら、黙っていたわけ!?」
「まさかあれが問題を引き起こすなんて、想像もしなかったよ! そのことに気付いた時、何とかシミュレーションを修正しようと思ったけど、PTCは停電で動いてなかったから、もう何もできなかったんだ」
「そうか。分かったわ。あの日、全てが止まった日、あなたが社に戻ったのは、証拠隠滅するためだったのね」
「あの日気付いたのなら、どうしてすぐに報告しなかったんだ!」
ニール軍曹はとても悔しそうな表情で、ケニーの上腕の袖口を強く握った。
「僕は世界を救おうと思ったけど、もう、どうしようもなかったんだ!」
「では、君はマザー・スーの暴走を、止める手だてはなかったと言うのか!?」
「そうです! 危険なプログラムは、もう世の中に抜け出してしまった後だったんです!」
ケニーは両手で頭を抱えた。
「軍曹、僕はリズのPCを盗み見しただけ、危険なプログラムを開発したのはリズの方だ!!!」
二ールは私の顔を見た。そりゃ私は、怒りに満ちた表情をしていたでしょうよ。二人は同時にケニーの顔面を殴って気絶させた。
作品名:L K 3 「フェニックス」 作家名:亨利(ヘンリー)



