レナ ~107番が見た夢~ 補稿版
【レナ】
あたし、お洋服って着たことなかった。
お客さんたちはいろんなお洋服でやって来て、それを脱いでロッカーにしまう、でもここにいるクローンはお洋服を着せてもらえないの、あたしたちのお仕事は裸でするものだから、ドアが開いている時もどんな体をしてるのか見せてなきゃいけないし……ご飯を食べたり休憩したりしてる時も同じなの。
だから幸男さんが白いワンピースを持ってきてくれた時は嬉しかった、初めてお洋服を着て、シャワー室にある鏡で自分の姿を見たの、なんだかちょっと恥ずかしいような気持になった……でも幸男さんが『よく似合う、可愛いよ』って言ってくれて、人間の女の子になったような気がした。
でも、あたしたちクローンは自分のものを持つことはできないの、必要なものはここにそろっているけど、自分が気に入ったものを使うことはできないし、持つこともできない、白いワンピースも見つかったら取り上げられちゃう、だから幸男さんはまたそれを持ち帰るの……手元に置いておければ会えない時も幸男さんと一緒にいるみたいに思えるんだろうけど……。
幸男さんは週末になると12時間コースを選んでくれるの、で、そのワンピースを着て並んでベッドに座って色々とお話もするの……。
ご飯を食べたり休憩したりするお部屋には天窓がある、太陽の光を浴びないと骨がもろくなっちゃうからなんだって、でも型ガラスがはまってて外の様子は見えないの。
でもね、晴れてるか曇ってるか、雨が降ってるかくらいはわかるよ、幸男さんが青い空の話をしてくれた時、それが晴れている時なんだってことはわかったけど、空が青いなんて知らなかった、だって晴れてる日には天窓は真っ白に見えるから、雲が白いってことも知らなかった、だって曇りの日には天窓は灰色に見えるから。
海ってどんなものかも全然知らなかった、それが青いってことも……だって水は透明だとばっかり思ってたから。
野原、山、川……知らないことばっかり……3番さんも知らなかったよ。
自然だけじゃないの、音楽や映画、本、テレビ、スポーツ……あたしは何も知らない。
幸男さんがそういうもののことを話してくれる時、あたしは一生懸命に想像するの、想像の中で風に吹かれて、野や山の景色を見て、川の水の冷たさを感じるの、幸男さんと一緒に……。
それでね、いっぱいお話して話し疲れるとワンピースを脱いで幸男さんと愛し合うの。
そう、愛し合うの……それって他のお客さんのお相手するのとぜんぜん意味が違う、じかに肌と肌をかさね合ってお互いの体温を感じあうの、唇を重ねて気持ちを通じ合うの、お互いの体の敏感なところを触り合って一緒に感じ合うの、そして、幸男さんがあたしの体の中に入って来るの……体の奥深くで繋がり合うの、幸男さんの精を体の奥深くで受け止めるの……その時、あたしは幸せ……好きな人と一つになれるんだもん……そのまま溶けて混ざりあっちゃったらずっと一つでいられるのに……。
でもあたしたちの時間は限りがあるの、幸男さんにはお仕事があるし、お金だってたくさんかかる、ずっと一緒にはいられない……。
でもね、幸男さんは『また来るよ』って言ってくれるし、本当にそうしてくれる、だから我慢しなきゃね……他のお客さんに抱かれなきゃいけないのはつらいけど……。
作品名:レナ ~107番が見た夢~ 補稿版 作家名:ST