レナ ~107番が見た夢~ 補稿版
【レナ】
幸男さんは時々少し乱暴になることがあるの、どうしてかなって思ったけど、ある時なんでそうなるのかわかった。
あたしが他のお客さんのお相手をしたばかりだった時、『お前の身体から前の男の痕跡を消してやる』って言われたの。
『俺のレナ、俺だけのレナ』とも言われてすごくうれしかったんだけど、すごく悲しくもあったの。
だってあたしも幸男さんだけのあたしでいたいのにそうじゃないから、そうなりたいのにできないから。
造られてからずっとここにいるし、ここから出られないことも知ってる、ここから離れたらあたしの心臓は止まっちゃうんだもん。
ここにいる限り、他のお客さんのお相手もしなきゃいけない、いやだなんて言えないの。
あたしたちの身の回りのお世話をしてくれる3番さん、歳を取ってお客さんがつかなくなって裏方さんになった人なんだけど、よくお話しするの。
あたしが幸男さんのことを話したら、『まあ、恋をしたのね』って優しい顔になったけど、すぐに厳しい顔になって『そのことは絶対お店の人に言っちゃだめよ』って言われた……どうしてかはきかなかった、なんとなくわかったから。
その代わりに『3番さんは恋をしたことあるの?』ってきいたら、少しの間だまって昔のことを思い出すような顔をしてたけど『ないわ……』って言った……でもわかる、きっと3番さんも恋したことがあるんだって、でもそれも言えないってことは、もう絶対きいちゃいけないことなんだって感じたし、それを知られちゃいけないんだとも思った。
それってすごくさびしいことだけど、そうなんだって……。
幸男さん、『レナが身体に刻んで良いのは俺の痕跡だけだ』とも言ってくれた、本当にそうだったらどんなに良いだろうって思う。
だから、幸男さんが少し乱暴になる時、あたしも一生懸命に抱かれるの、抱かれるのに一生懸命って変かもしれないけど、そういう気持ちなの、他のお客さんに抱かれたことは全部忘れたいから、忘れさせて欲しいから……。
作品名:レナ ~107番が見た夢~ 補稿版 作家名:ST