レナ ~107番が見た夢~ 補稿版
【幸男】
「レナ、また来たよ」
「幸男さん!」
俺は三日と空けずにレナの元へ通った、そして週末ともなれば一晩を一緒に過ごした。
その料金は給料では賄いきれずに、結婚資金にと積み立てていた貯金を崩すことになったが、レナとの時間は金には代え難かった。
レナはいつもぱっと顔を輝かせて俺を迎えてくれる、そして俺達は時間が許す限り肌を重ね合い、快楽を貪り合った。
でも時々はレナの部屋、107号室のドアが閉まっている事もある、そんな時はフロントでレナが空く時間を尋ねて出直した。
C-イン側ではそれを快く思わない事は知っていた。
クローンの女とリアルの男があまり深い仲になって欲しくはないのだ、クローンにC-インにとっては無用な知恵がつく恐れがある。
だが、俺はそうしないではいられなかった。
そして、レナの身体が空くのを待って部屋に入る時、俺もレナも少し気まずい思いをする。
それまで別の男に抱かれていた事は明らかだからだ。
そんな時、俺はいつもより激しい劣情に駆られるのだ。
「レナ、レナ、レナ……」
俺はレナの名前を何度も呼びながらレナを激しく求める。
「幸男さん、幸男さん、幸男さん……」
レナもそれを全身で受け止めて、俺に全てを委ねてくれる。
「あああっ……ああっ……」
俺はレナの唇をむさぼり、その華奢な体を抱きしめ、滑らかな肌を撫で廻し、レナの体のできるだけ奥深くに俺の精を注ごうと激しく腰を振る、レナがそのことで子供を宿すことがないことは知っている、クローンは初潮を迎える前にその生殖機能を奪われるから……だが、無駄撃ちだと分かっていてもレナに俺の種を撒かずにはいられない、それは人間誰しもが持っていたはずの本能であり、レナに対する俺の愛情の証だからだ。
「レナ、お前の身体から前の男の痕跡を消してやる、俺のレナ、俺だけのレナ、レナが身体に刻んで良いのは俺の痕跡だけだ」
「消して、忘れさせて、幸男さんだけのレナにして……」
「レナ……愛してる、俺だけのものにしたい」
「私も幸男さんだけのものになりたい……」
俺たちお互いを自分だけのものにしたいと願い、互いの名を呼び合って激しく交わる。
しかし、それは叶わぬ事だと言うことも知っている。
もしできるのなら、どんな代償を払ってでもレナを俺一人のものにしたいと思う、レナとひとつ屋根の下で暮らしたいと願う、しかし、このC-インから離れればレナの心臓は止まってしまう、それはクローン人間とリアルな人間を区別して共存するために必要なルール、もしそれを回避することが出来る技術があったとしても法がそれを許さない。
それがわかっているだけに、この部屋で、107号室で、俺とレナは互いの身体を貪るようにして愛し合う。
レナは生まれてこの方、このC-インしか知らない、ここで男に抱かれるためだけに生まれて来た、そうやって育って来た
しかし、それが本来は愛の行為であることを知ったのはごく最近の事なのだ。
レナは俺を愛してくれている、だが、それを表す術を一つしか知らない。
レナがここから一歩も出られない以上、俺達は抱き合い、お互いの身体を貪りあう以外に愛し合う術を持たないのだ。
作品名:レナ ~107番が見た夢~ 補稿版 作家名:ST