レナ ~107番が見た夢~ 補稿版
【レナ】
あたしを選ぶお客さんは大きく分けて2種類。
一方はいわゆるロリータ・コンプレックス、小さな女の子にしか興味を持てない人。
そういう人はたいてい優しくしてくれる、夢中になってちょっと乱暴になっちゃう人もいるけど、乱暴に扱った後でも『大丈夫だった?』とか聞いてくれる、そんな時、あたしはちょっと辛かったなと思っても『大丈夫でした』って言っちゃう。
もう一方は征服欲の強い人。
あたしみたいに小さくて力も弱いと思うように扱える、持ち上げたり押さえつけたりするのも楽、だから小さい子を選ぶの。
そんな人はたいてい乱暴、あたしが痛がったり苦しがったりするのを見て興奮するみたい。
前のお客さんはあとの方。
それも1時間コースだったから、最初から最後まで時間をおしむように責め立てられてぐったりしちゃった。
体が空いてればドアも開けとかなくちゃいけないんだけど、開けてあれば寝てても怒られないの、多分1時間くらい寝てたと思う、少し寝たら元気が出て来たからベッドを直してたの、1週間ごとにどれくらいのお客さんを相手にしたかチェックされて、少ない方だと怒られちゃったり、ご飯をもらえなかったりするから……。
そしたら、廊下を歩いてたお客さんと目が合ったの。
あたしに興味を持ったみたいだけど、その人は他の人とちょっと違ってた。
なぜだかわからないけど、ちょっとびっくりしたみたいな顔をしてたの。
ロリータ・コンプレックスの人にも征服欲の強い人にも見えなかった……そう、ごく普通の人、そういう人はたいていあたしのドアの前は通り過ぎて行くんだけど……。
でもその人はスッと部屋に入って来たの、『今から……いいかい?』って言って。
(きっと良い人なんだろうな)ってすぐに思った、だってそんなこと聞く人いないもん、ドアが開いてるってことは体も空いてるってことだから 体が空いてさえいれば、あたしたちクローンはお客さんを拒んだりできないから。
で、そのお客さん、部屋に入って来るとフロントに12時間コースを告げたの。
ちょっとびっくりした。
だって12時間コースは一番長いコースだから料金も高いの、だから12時間コースを選ぶ人はたいていもう何度かあたしを選んだことがある人ばっかり、最初から12時間コースって初めてだった。
それから『一回はさせて貰うけど、多分俺は寝ちゃうから、君も朝まで一緒に寝ててもいいよ』とも言われたの、正直、疲れてたからうれしかったけど、そんな風に言われるとかえってちゃんとしなきゃって思っちゃう。
その人、ずいぶんと背が高くて180センチくらいあったから、シャワーを浴びながら向き合うとあたしの顔はその人の胸の辺り、そんなにたくましい胸でもないし、スリムでもない、でもその胸に顔をうずめてるとなんだか安心したの、体をくまなくなでられたけど少しもいやじゃなかったし、これからこの人に抱かれるんだと思うとなんだかドキドキしちゃった……。
ベッドに入ってもいきなりのしかかってなんか来ないで、あたしの体をやさしくなでまわしてくれた……だれでもそうしてくれるわけじゃない、1時間コースなら時間を惜しんですぐにのしかかって来る人がほとんど、正直言うとまだ充分に濡れてないのに挿れられると辛いの……。
たっぷり時間をかけてくれたのは12時間コースだからかな、とも思ったけど、本当に気に入ってくれてるんだって思えた。
その人は思った通り、ロリータ・コンプレックスの人でも征服欲の強い人でもなかった、『子供には興味がなかったはずなんだ』と言っていたし、『小さくても感じてくれれば女としての魅力もあるよ』って言ってくれた。
あたしが男の人のお相手をするのは、そのために造られて、それしか生きる術がないから、だから気に入ってくれてもそうでなくてどっちでもいい、ずっとそう思ってたんだけど、あたしをありのままに受け入れてくれたんだなって思うとうれしかった。
それとね、あたしは体が小さいからやっぱり大人の男の人のお相手するのって大変なの、まだ痛くされちゃうことも多いし……でもその人のはそんなに大きくはなくて、痛くはなかった、それでも少しだけ苦しかったんだけど、なんかそれも良くって……最初に一回だけで良いって言われたけど、結局2時間くらい抱かれてた……でも全然いやじゃないって言うか、もっと抱いて欲しいって思った……そんなの初めてだったな……。
でね、寝る時に腕枕してくれたの、それも初めてだった、腕を差し出された時はどういう意味か分からなかった、でも、実際に腕枕してもらうとなんだか安心した。
その人ね、結婚して家族を持ちたいって思って女の人と付き合ってたんだって、結局そこまで行き着かなかったって言ってたけど……だからなのかな、自分だけ気持ち良くなれば良いって感じじゃなくて、あたしも気持ち良くさせてくれようと思ってくれてたみたい、そういう人には初めて会ったの……あのね、あたしたちクローンの女の子って、リアルの男の人のお相手をする為だけに造られたんだからお客さんのお相手するのは当たり前なんだけど、その人とはただお相手するってだけじゃなかった、なんだかよくわからないけど、体を重ねて繋がっていられることが嬉しくて……そんな気持ちって初めてだった……。
腕枕してもらってぐっすり眠って、目が覚めたらその人はまだ眠ってた、その顔を見てたらまた抱いて欲しいなって思った、あたしを抱いて気持ち良くなってくれたらうれしいなって……そしたらね、その人も目を覚まして、前の夜よりもっと優しく抱いてくれた、『今までで一番気持ち良かった』とも言ってくれた、それってすごくうれしかったの。
でね、帰る時に名前を教えてくれた、幸男さん……その名前はぜったい忘れないって思った、それからあたしの名前も聞かれた……でも、あたしに名前なんてない、あたしはただの107番……そしたら『107の0と7でレナってどう?』だって……レナ、レナ……すごく気に入った、ううん、気に入るとか気に入らないとかじゃなくて、名前を付けてもらって、その名前で呼んでもらえるって、なんて素敵なんだろうと思った。
でもね、あたしは幸男さんのお相手だけしてればいいわけじゃないの……体が空いていればドアを開けておかなきゃいけないし、ドアが開いていればだれでも部屋に入って来てあたしを抱く……それってなんだかいやだなって思った……今までなんとも思わなかったのにね……。
幸男さんがあたしに名前を付けてくれてよかった、だって他の人に抱かれる時、あたしはただの107番、でも幸男さんの時だけはあたしはレナなんだもん……そう思わないとなんだか辛いけど……。
作品名:レナ ~107番が見た夢~ 補稿版 作家名:ST