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百代目閻魔は女装する美少女?【第一章】

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「そう邪険にしないでよ。をねゐさんは事実を述べているだけよ。閻魔大王と呼びたくなければ、閻魔女王と呼んでもいいよ。私の近習たちは女王様と呼んでるけどね。はあああ~。」
 閻魔女王と名乗る女は大きく欠伸をした。緊張感の欠片もない。
「ねえ、寝起きのコーヒーを淹れてよ。」
 すっかりくつろいだ姿勢でオレに向かっているようだ。
「オレはインスタントしかできないぞ。って、そんな場合じゃない。全然事実が確認できないぞ。」
「そうなの?じゃあこれを見てよ。をねゐさんの力が少しは理解できると思うよ。」
 閻魔女王は右手を上げて、軽く宙に円を描いた。すると、そこに、大きな白い輪ができて、それは輝きながら下に降りてきた。輪の中にはきらきらと光沢が揺らめいている。よく見るとそれは水のようだ。ただ、輪の下には水はなく、今まで通りの空間が残っている。
「ほらね。これで、釣りをしてみてよ。」
 閻魔女王はオレに1メートルくらいの短い釣竿を渡した。
「『わけがわからん』と言いたいんでしょうけど、とりあえずやってみなさいよ。」
「どうしてオレのセリフを盗むんだあ?」
「そんな抗議をしてるヒマがあったら、釣をしてね。都ちゃん。」
「仕方ないな。ブツブツ。」
 オレは釣り糸を垂らした。
「3分間待つのよ。」
「はあ?」
 言われるままにじっと待つ。時計の針は午前7時を回っている。こういう時の3分とは意外に長いものである。
『グググッ』。ヒットした重量感が両手にのしかかる。これはかなりの大物だ。
「さあ、そのまま一気に引き上げてみなさい。」
 閻魔女王の指示に従うのは癪だが、釣りの醍醐味には勝てないのか、狩猟本能のまま、力任せに獲物を引っ張り上げた。釣果は・・・。
「何よ、ここ。ずいぶん狭くて貧相な部屋ね。セレブのアタシにはまったく似つかわしくないわ。」
 金色のツインテール。小柄な少女だ。微妙に吊り気味の黄色の瞳。ふんわりしたスカートのワンピース。白を基調として、水玉模様が愛らしい。腰のところには大きなリボン。ツインテールの髪にも白いリボン。清純派を強調したものか。そんなお嬢様風に見える少女であるが・・・。
『ピピピ』。ツインテール美少女が付けた片目の眼鏡レンズのようなものが画面に何かを投影させている。スロットマシンのようにグルグルと数字が回転している。視線の先には眠っている桃羅。
「なに、この小娘。美少女誘萌力は1155だわ。アタシより200倍かわいくないわね。」
『美少女誘萌力』?わけのわからないことを言い出した。それとそのレンズ?ゴーグル?はいったいなんだろう。
「おい、閻魔。この女の子はどこのどいつだ。いったいどこからやってきたんだ。」
 とりあえず、質問はツインテール美少女ではなく、閻魔女王に向けた。
「この娘は田井中由梨というの。霊界からお前が引き上げたのよ。これも何かの因縁だと思うよ。」
「霊界?この輪の池はそういう世界に繋がっているのか?てか、霊界って、そんなところがあるのか?」
 頭の中は目の前に起こっている奇妙キテレツな事実というマグマで爆発しそうである。目はさぞかしナルト状態だろう。
『ピピピ。ピー!』レンズからさっきより大きな音がした。
「こ、これは誘萌力が結構高いわね。2215だわ。でもアタシより190倍かわいくないけどね。」
 なんか計算が怪しい。そもそもその数値は何を基準に算定されているのか?そんなことより、どうしてオレが『美少女誘萌力』の対象になっているんだ?
「あららら。もうやられちゃったみたいだね。をねゐさん大ピンチだよ。」
 素っ頓狂な声を出したのは閻魔女王。でもどこか緊張感に欠ける。
「『やられた』だと?何のことだ?」
「いちいち質問が多いね。しつこいと、をねゐさん嫌っちゃうよ。閻魔大王の後継者候補となったら、ライバルから狙われるのは当然のことよ。」
「言ってることがさっぱりわからない。順を追って説明してくれよ。」
「まずは都ちゃんの状態から説明しようね。由梨の美少女カウンター、通称『ユーホーキャッチャー』に反応したということは、都ちゃんはすでに女の子になっているの。」
「な、なにィ?」
 大慌てで、しかし慎重に、つまり、恐る恐る、色んな部分に手を当ててみる。まず、髪。男子ではあるが、もともと長く伸ばしている。マリーンブルーのツヤツヤした綺麗なもの。からだ全体に目をやってみる。腰のくびれが眩しい。腰から横に手を移動する。『ない』。象徴が不在。憲法違反だろう。そして、外見的にいちばんの部分。首から約10センチから下の、あの場所へ手を滑らせる。『ぷにゅうううううううううううう』。
現状の胸サイズを不等式で説明する。
 閻魔大王>オレ>桃羅
 やった!桃羅に勝利!うれしい!なんて、喜んでいる場合じゃない。
 結論=オレは女子の仲間入り。オレと桃羅は『兄妹』→『姉妹』になった。こんなトンデモナイことが身に降りかかり、本来なら大騒ぎして、のたうち回りそうなものだが、誠に不思議なことに、オレは意外に落ち着いている。いつからこんなオトナな性格になってしまったのか。
「わかったかな。そう、都ちゃんは女の子になってしまったのよ。いや正確には、『女の子になる』という呪いをかけられているようだけどね。」
「呪いだと?いったい誰がかけたんだ。」
「それはわかんないね。この世界にはいろんな者がいるからね。」
「この呪いを解くにはどうしたらいいんだ?」
「さあね。恐らくは、呪いをかけた者を探し出して、呪いを解かせるか、あるいは、都ちゃん自身が閻魔大王となって、それ相当の力を手にして、自分にかけられた呪いを解除するかだろうね。」
「閻魔大王ってのはそんなに力を持つものなのか?オレのイメージだと、死んだ人の行き先を天国か地獄にする番人ということだけど。」
「その通りだよ。そのためには、かなりの力が必要となるの。閻魔大王後継候補者が正式な閻魔大王となるには想像を絶する努力と才能が必要だよ。」
「ということは誰でもなれるということではないということなのか。」
「そう。都ちゃんは才能においてはクリアしているからこそ、をねゐさん自らこうしてやってきたというわけだよ。」
「後継者って、閻魔大王ってのはその地位を引き継いでいくものなのか?」
「そうだね。年齢を重ねたり、色んな事情で、力が落ちてくると次の世代に託すことになるの。今がちょうどその時期なんだ。をねゐさんが99代目閻魔大王なのさ。だから次は記念すべき百代目。ゴホン、ゴホン。」
 閻魔女王は咳をした。体力が減退しているのは本当か。
「そうか。納得はいかないが少しは理解した。」
 そう言いながらも切迫感がないオレ。男子がいきなり女子のからだになってしまうというラノベやアニメではよくある展開。こういう場合って、自分の胸の膨らみにどぎまぎし、下にあるべきものがなくうろたえてしまうのが定番的なリアクションである。しかし、引き続きなぜかオレは冷静である。
「都ちゃんはずいぶん落ち着いているね。結構変わった人間なんだね。」
 閻魔女王から至極もっともなご意見を賜った。