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悠久たる時を往く 〜終焉の時、来たりて〜

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七. 終焉



[神々の戦い]

 アリューザ・ガルドの天蓋《てんがい》が落とされ、異空間から古《いにしえ》の神々が流入してきた。その数およそ三百柱はあろうか。加えて彼らは忠実な眷属を引き連れていた。冷酷無比な機械の僕《しもべ》——“テクノロジー”(アリュゼル神族に供与した、不完全なものではない)の粋を結集して造られた、銀の兵士である。

 神々の戦いは幕を開けた。
 戦局は古神たちが圧倒し、アリュゼル神族は防戦一方となった。やがてアリュゼル神族が“天界《アルグアント》”へ戻るすべを奪われると、敗色はより一層濃厚となる。古神の勢力は攻勢を強め、もはやアリュゼル神族の命運は尽きた。
 そのように思われた。

 一方、神々同士の神気——超常的な力のぶつかり合いによって、アリューザ・ガルドは文字通り、天地がひっくり返るほどの天変地異に見舞われた。
 真横に吹く猛烈な吹雪。天幕のごとく地下から吹き出る灼熱の溶岩。地殻は常に揺れ動き、陸地と海が瞬く間に生まれ、消える——物質界の摂理ではあり得ない事象がいとも容易く起こされた。これら、神々の戦いが引き起こした途方も無い災禍は、当の神々をもってしても止められない事態となった。

 しかして——否、必然的にその反動は起こった。アリュゼル神族もタインドゥームの神々も予期せぬ、忌避すべき存在が覚醒し、動き出したのだ。
 古神が穿《うが》った空の天蓋。その虚ろな空間から“混沌”が汚泥のごとく、アリューザ・ガルドへと止めどなく流れ落ちてきた。



[“混沌”]

 超存在“ミルド・ルアン”。そこからは三つのものが分かたれた。
 ひとつは原初世界。これがアリューザ・ガルドとなる。
 もうひとつは魂。古神やアリュゼル神族はここから生まれた。
 そして最後の一つが“始原の力”。荒ぶる超自然はやがて“混沌”へと変貌を遂げた。

 世界にせよ魂にせよ、そのあり方には法則——“秩序”がある。“混沌”はそれとは相反する存在でありながら、世界が成り立つ上で不可欠な存在でもある。“秩序”と“混沌”が絶妙な均衡を保つことで世界は存続し、時は先へと進んでいく。
 だが両者の均衡が崩れ、世界存続が危機的状況に陥ると、“混沌”は全てを“もとのひとつ”——超存在“ミルド・ルアン”へと戻すべく、世界と魂を飲み込もうとするのだ。

◆◆◆◆

 かつて人の世で、知られているかぎり二度、“混沌の欠片”が亜空間に出現した。
 ひとつは“魔導の時代”における“宵闇の公子”レオズスの君臨。
 もうひとつは“諸国の時代”のことであり、事の顛末《てんまつ》については『フェル・アルム刻記』に詳しい。
 運命を切り開く存在——人間や聖剣そして魔法こそが、“混沌”を押しとどめつつ、崩壊する世界を回復させ、あるいは守護できたのかもしれない。だが——

 今、“混沌”は堰を切り、地上を洗い流す。この濁流から逃れるすべはない。戦いを繰り広げていた神々も全て“混沌”に飲まれ、“混沌”の一部と成り果てた。
 すべての魂と世界を侵食し内包した“混沌”は動きを止める。
 もはやここには、時の概念すらなくなった。

 アリューザ・ガルドと呼ばれたひとつの世界は終焉に至った。
 やがて超存在へとすべては戻るのだろう——“在り”つづけるために。