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赤のミスティンキル その後の物語

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(三)

 ヒュールリットがすぐに現れることはないと悟ったミスティンキルは落胆する。ヒュールリットを待とうとも考えるが、ウィムリーフはオーヴ・ディンデの中へと入って行ってしまった。また、アザスタンも限界だ。翼にかけられた呪いがいよいよもってアザスタンを蝕み、これ以上飛ぶのは不可能だ。彼らはオーヴ・ディンデの直前で着陸する。ひどく消耗したアザスタンを気遣い、ミスティンキルは独り、ウィムリーフを追う。

◆◆◆◆

 戦乱で至るところ焼け崩れ、廃墟となったオーヴ・ディンデ城。その入り口でウィムリーフはミスティンキルを待っていた。
 彼女はくすりと笑い、指を鳴らす。と、頭上の月は瞬時に青く色を変えた。
「ようこそ、魔導王国へ。宵う来そ」
 ウィムリーフは言う。
「これこそは私の魔力。月から攻撃しましょうか? それとも黙って付いてくる?」
 この言葉は偽りだったが、ミスティンキルには効果が絶大であった。目の前の彼女は、恐るべき力を持っている。説得すれば元のウィムリーフに戻るであろう。そんな淡い期待は崩れ去ったのだ。
 青い月のもと、ウィムリーフが城の中へ導くように入っていく。意を決し、ミスティンキルもあとに続く。

◆◆◆◆

 長く続く螺旋階段を降り、ウィムリーフとミスティンキルは、オーヴ・ディンデ最深層へと辿り着いた。
 大きな空洞の最深部、そこには魔力の結晶、ぼうと紫に光を放つ“魔導核”があった。
 対峙する二人。ミスティンキルは元に戻るよう、ウィムリーフに説得する。
「私はフィエル。フィエル・デュレクウォーラ。“漆黒の導師”たるスガルトの最後の弟子。ウィムリーフなどではないわ」
 ウィムリーフ、否、魔女フィエル・デュレクウォーラの言葉にミスティンキルは衝撃を受ける。
 追い打ちをかけるように、魔女は言葉を続けた。
 たしかにウィムリーフの意識はこの身体にある。ミスティンキルよ、赤い魔力を持った龍人《ドゥローム》よ、私は願いが叶えられればそれで良い。あなたの力を貸して欲しいのだ、と。
「この魔導王国を復活させようってのか?!」
 ミスティンキルの言葉を聞き、魔女はくっくっと笑う。
「あなたがそう思うならばそれが答えでもいいでしょう。ともかく、ここに三つの大きな“力”がある。あなたの魔力。私の魔力。“魔導核”にあるスガルトの魔力。今、オーヴ・ディンデの大魔導は準備された。あとは発動させるだけ。赤い龍人、あなたの魔力のかぎりを見せてみなさい」
 力を貸しなさい、と魔女は再度告げた。私はあなたを主とし、あがめ、愛しましょう。ウィムリーフの人格もここにいる。
「断る」
 ミスティンキルは明解に意志を告げた。
「ウィムを返せ!」
 ミスティンキルは怒り、膨大な赤い魔力を一気に放った。

「それが答えか!!」
 魔女は言うなり、瞬時に青い魔力の力場を彼女の目の前に顕現させた。
「では我が最大の魔力を発現させましょう! 力をもって己が身を守るがいい! さもなければあなたが死ぬこととなる!」
 フィエルによって、破壊の魔導が発動される。それは空洞どころか、王城を吹き飛ばすまでの威力を持っていた。
 とっさに、ミスティンキルは魔力の防御壁を張る――はずであった。が、彼の魔法は暴走する。彼自身の複雑に絡まった感情に呼応するがごとく。
 ミスティンキルの魔法は――まったき赤い魔力はついに破壊の意志を持ち、比類なき魔導として完成してしまう。
 ミスティンキルは焦り、どうすればこの力を引っ込めることができるか考えるが、フィエルの魔法が近づき、ついにミスティンキルの魔法とぶつかり合ってしまう。
 強大な赤と青の力が合わさると神々の力もかくやとばかりの爆発が生じ、光とともに周囲の地面や壁を粉々に吹き飛ばしていく。もはや制御不能であった。
 魔女はその時、確かに笑みを浮かべた。そして――
 魔力は大きく向きを変え、その先にいるフィエルをも消し飛ばしたのだ――