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赤のミスティンキル その後の物語

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(二)

 一方、ミスティンキルたちを追いかけていた、ハーンとエリスメア、そして神獣は――

◆◆◆◆

 時はさかのぼる。
 ハーン父娘が駆る神獣エウゼンレームが、その神速をもってラミシス遺跡の島に辿り着かんとしたのは、彼らのデュンサアル出立から一晩明けた朝方のことだった(大事をとって、夜間は取りやめた)。空気を切り裂いて天翔《あまかけ》る彼らを阻む者は存在し得なかった。
 朱色の龍、ヒュールリットを除いては。

 龍の気配が近づきつつあることを知ったエウゼンレームはぴたりと制止し、下方からヒュールリットが放った灼熱の炎をすんでの所でかわした。
 そしてヒュールリットが現れ、行く手を阻んだ。が、龍にとってこの侵略者達は意外な顔ぶれだったようで、彼はハーンを、エリスメアを、そしてエウゼンレームをそれぞれ睨み付けた。強大な魔法効果を持つ龍の凝視から目を背けたのは、人間《バイラル》であるエリスメアだけだった。ディトゥア神と神獣は臆すことなく龍を真っ向から見据えるのだった。
【……これはどういうことか。宵闇のレオズスに神獣、さらに人間の組み合わせとは】
 戸惑いを見せたのはあろうことか、龍のほうだった。

◆◆◆◆

 それから後――

◆◆◆◆

 夜の帳が降りた。眼下の海の色も漆黒に染まる。
 朱色の龍《ドゥール・サウベレーン》に騎乗するのはハーン。そして彼らと並んで空に滞空する神獣エウゼンレーム、それに騎乗するエリスメア。四者はラミシス遺跡の島への上陸を幾度となく試みるも、ことごとく失敗していた。
 予想だにしなかった事態が起きていた。
 島への上陸を阻むように、目に見えない魔法障壁が屹立していたのだ。九百年前に魔導王国は滅亡し、以来島は沈黙を保ってきたというのに、今日になってまったく唐突に変貌を遂げた。この魔法障壁は、かつて“壁の塔”にいたラミシスの魔法使い達が発動した障壁より遙かに強大だ。島ではいったいなにが起こったというのか――

 と、その時、ヒュールリットが念話を開始したのをエリスメアは察知した。ヒュールリットに騎乗している父も、彼女同様に念話を感知しているようだ。父娘は意識合わせを行うように、視線を交わしてうなずき合った。
【……ミスティンキルだな。このヒュールリットの助力が必要か】
 龍は静かに、念話を続ける。父娘はそれに聞き入った。
【結界の地! オーヴ・ディンデの封印が解かれたというのか?】
 ヒュールリットの声が急に厳しいものになる。念話の相手や会話の内容は把握できないが、“ミスティンキル”と確かにヒュールリットは言った。それはヒュールリットが先日出会ったという龍人《ドゥローム》の魔法使いであり、また自分達が探している“魔導を解き放った者”に間違いないだろう。
 エリスメアとハーンは再び顔を見合わせる。この事態はミスティンキルが起こしてしまった事故なのだろうか?
【……なるほど。実は私もそちらに急ぎ向かっているところなのだ。わけあって聡明な魔法使い達を連れている】
 “聡明な魔法使い達”とは自分達のことだろうか。
【……そうだ。私は引き続き、急ぎ向かう。連れの魔法使い達も貴君らに会いたがっている。だが到達にはしばし時を要する。魔法障壁が私達を阻んでいる。が、必ず突破する。それまで待て! ……大事が起きるまえになんとかせねばならん……なに?! もうオーヴ・ディンデへ向かっているだと?! 待て――】
 ヒュールリットにとっては不本意ながら、念話は途切れたようだ。朱色の龍は苛立たしげに鼻から煙を上らせた。

「……今のは念話だね。君の声だけは聞こえていたんだけれど、相手はミスティンキルだっけ? 魔導の継承者から連絡が来たというわけかい?」
 父ハーン、すなわち宵闇の公子レオズスは単刀直入に問いかけた。龍はハーンのほうへ首を向ける。
【貴殿の言うとおりだ。レオズス。ラミシスの遺跡に向かった龍人と風の民《アイバーフィン》の話はしたな? そのうちの龍人、ミスティンキルが私に助けを求めてきた。『アイバーフィンのウィムリーフが飛んでいった。たったひとりで、オーヴ・ディンデの結界まで』とな】
「ウィムリーフが?! なんのためにそんな危険を……馬鹿な……」
 ハーンは仰天した。
「ああ、いや済まない。君が嘘偽りを述べてると思ってるわけじゃないよ、朱色のヒュールリット。ただね、ウィムリーフ――あの娘のことは僕もそれなりに知っている。僕の友人の孫娘なんだ。あの利発なウィムリーフがまさか、そんな……。ミスティンキルが魔導を間違って発動させてしまった時、それを抑える役目こそがウィムリーフだ、適役だ、とも思っていたのに。なにを思っての行動なんだ? とうてい信じられない……」
【ミスティンキルの言葉にも虚偽はない。貴殿にとってそうであるように、ミスティンキルにとっても突然の背信行為だったのだろう。そしてウィムリーフが飛び去り、それに呼応するように始まったというラミシス中枢域の異変、魔導塔の起動――。これらの事象は人智を越えた魔法を発動させ、アリューザ・ガルド世界そのものに影響を及ぼしてしまうかもしれない、と私は危惧する】
「ウィムリーフ。なぜだ……」
 ハーンは頭を抱えた。
「魔導王国は蘇ったのか? ウィムリーフはそれに操られているとでも?」
【分からぬよ。問題の場所へ行ってみないことにはな】
 ハーンは魔法障壁を苦々しく見つめる。
「……僕達はなんとしても、こいつを突破しなきゃならなくなったな!」