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赤のミスティンキル その後の物語

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◆◆◆◆

 四つの魔導塔から放たれた魔力の帯は、とうとう中心部、オーヴ・ディンデの結界でぶつかり合う。
 魔力の色は混ぜ合わさり、宵闇よりなお濃い暗黒を作りだしたのだ――

◆◆◆◆

 “闇”が形成された。
 超常の様相を呈しているその場にある、ウィムリーフの青い魔力はいっそう際立つ。
 ミスティンキルは無意識のうちに“遠目の術”を発動させた。彼の視界はぐっと、ウィムリーフへ引き寄せられる。彼女はすらりと屹立し、オーヴ・ディンデの結界と対峙している。今もまた、背中しか窺い知れない。
 刹那、彼女が振り向き、笑みを浮かべた。今度ははっきりと、ミスティンキルを捉えた。
「――!!」
 その妖しさに、ミスティンキルは魂を吸い取られそうな感覚に囚われた。

◆◆◆◆

 ウィムリーフは両手を掲げる。すると、形成された闇は一転、光の玉となる。

◆◆◆◆

【そんなことが起こりうるのか?!】
 千年以上を生きる蒼龍をして経験したことの無い、恐るべき事態が起きている。
 魔導の究極である“光”が形成されたのだ。これがどれほど驚愕に値するか、ミスティンキルはまだ知り得ない。ただ、彼は本能的に畏《おそ》れた。

◆◆◆◆

 そして光により結界は消失した。幾百年の時を経て、滅び去った王城――オーヴ・ディンデがいよいよその姿を現した。
 ミスティンキルとアザスタンは大いに恐れる。何か切り札はないか。そう考えているうちミスティンキルは、朱色《あけいろ》のヒュールリットのことを思い出した。

◆◆◆◆

【……貴君らを捨て置くのは私の義に反する。竜殺しの勇者達よ、魔境を巡る冒険家達よ、もし貴君らに危険が迫り、助けを求めるのならばいつでも参じよう――】
 一週間前、“壁の塔”ギュルノーヴ・ギゼ上空でヒュールリットは約束した。ならば今こそがその時だ。
【あのデューウ《はらから》を喚ぶのか。時間がかかるかもしれんぞ】
 とアザスタン。
「分かってる。けれど、これから先どうなるかなんて、おれ達に想像できねえだろう? 助けはあったほうがいい。ああ。まったくないよりはずっといい」
 ミスティンキルは赤水晶《クィル・バラン》のかけらを上衣の内側から取り出す。護符がわりにと肌身離さず持ち歩いていたものだ。生まれ故郷から追い出されたときに持たされた赤水晶。そのうちのまだいくつかはこの冒険行に持ってきている。ただしそれらは下の野営地に置いてきてしまった。
 だが今はそれにかまっている場合ではない。ミスティンキルにとって本当に大事なものはそれではない。彼は天を突くように赤水晶を高く掲げ、ぐるりと空中に円を描く。

「龍のアザスタン、そしてドゥロームのミスティンキル・グレスヴェンドが喚ぶ!」
 ミスティンキルは召致のはじまりのことばを言い放つと、自らの魔力を水晶に宿らせた。
【……ケルスタ・アーンエデュヴイガック・ノマ・ヘウルリェット(召致に応じよ、汝が名はヒュールリット)】
 まるで自分の言葉のように、龍の言葉をつらつらと詠唱する。言い終わると彼は目を閉じて赤水晶に念じた。一瞬、赤水晶がまばゆく煌めいた。
(ウィムを、おれ達を助けてくれ!)
 魔力を帯びた赤水晶をかざしながら、ヒュールリットへ届けと願いをこめる。
 しばらく間を置き、強い念を込めて二度、三度とヒュールリットの召喚を試みた。
【ケルスタ・アーンエデュヴイガック・ノマ・ヘウルリェット!】
 しかし変化が起きる兆しはない。
「頼む! 来てくれ! ヒュールリット!」
 ちらりと、横目でアザスタンの顔を伺う。アザスタンは目を閉じて佇み、無言を貫いている。念が届くのにも時間がかかるのか、それともやり方を間違えたか。ミスティンキルが不安を抱いた時――

【……ミスティンキルだな。このヒュールリットの助力が必要か】
 その声は明瞭に、ミスティンキルの頭の中に直接語りかけてきた。
「ヒュールリット! どこにいるんだ? 頼む、おれ達のところまで来てくれ! ウィムが、アイバーフィンのウィムリーフが飛んでいった。あいつはオーヴ・ディンデの結界まで行っちまった! たったひとりで――!」
 ミスティンキルの声色が感情的に揺れる。
【結界の地――! 封印は解かれたのか?】
 ヒュールリットの声が厳しいものになる。
「いや、今のところは……」
【……なるほど。魔導塔にいるようだな? 実は私もそちらに急ぎ向かっているところなのだ。わけあって聡明な魔法使い達を連れている】
「魔法使いだって? そいつは助かる。いや、とにかく早く助けがほしい。すぐにだ!」
 しばらく時を置いてヒュールリットの声が伝わってきた。
【私は引き続き、急ぎ向かう。連れの魔法使い達も貴君らに会いたがっている。だが到達にはしばし時を要する。それまで待て! ……大事が起きるまえになんとかせねばならん。私の直感であり、連れ人の考えでもある】
 ヒュールリットからの念話は遮断された。と同時に、媒介となっていた赤水晶は赤い炎に包まれ、ミスティンキルの指の間であっという間に燃え尽きた。