赤のミスティンキル その後の物語
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【不可逆だ。時の遡行など神々の力をもってしてもありえんぞ】
「けれど私の意識は長きにわたり世界と交わっていた。そこで知ったのです。赤龍よ。魔導を復活させし者よ。貴方などより私のほうが、世界の理《ことわり》にはるかに長じている。……そう、大いなる神々よりも」
【人間にしては傲慢に過ぎる、魔女!】
ミスティンキルは吠えた。
「私は慎ましやかに学びたいだけ。神の領域に至ることは結果でしかありません。……かつて私は貴方に言いました。『力を貸しなさい』と。さて、どうでしょう。意識体ではそう長くは保ちません。……この、元の身体が欲しくはありませんか? 私とひとつになればそれが叶います。龍の魔力をも加えれば、“時の魔法”の発動が確実になる。この世界も無事で済みます」
ミスティンキルは魔女の次の言葉を待つ。
「魔法の発動と同時に、私はこの時代から消え失せる。この世界に影響なくね。では不完全なままだとどうか? 魔法は発動し、私は時を遡ります。これは変わらない。けれどもその反動として、制御不能の魔力が暴走して――おそらく東方大陸《ユードフェンリル》くらいは吹き飛ぶでしょう」
「……さすがに大きく出すぎたね」
その時、空間を渡ってハーンが、否、宵闇の公子レオズスが現れた。
事ここに至り、ディトゥアの神々が手をこまぬいているわけにも行かない。神の一柱としての力を発揮したレオズスは魔女の背後に突如出現し、神速でことを為した。
漆黒剣レヒン・ティルルが魔女の――ミスティンキルの身体を頭から一刀両断したのだ。
「これで終わるとは思ってないけれどね」
レオズスの言うとおり、フィエルの意識は死なず、次の宿主を探す。意識さえあれば、時の果てに機会はやって来る。
【ウィム!】
「ええ!」
この時を待っていたとばかりに、ウィムリーフがフィエルの意識を捕捉した。彼女にだけは視えていたのだ。
そして、かつてフィエルがウィムリーフと同一になっていたように、今度はウィムリーフがフィエルを取り込んだ。ウィムリーフの内なる、静かな戦いがはじまったが、やがて決着が付いた。
ウィムリーフとフィエルは全きひとつのものとなった。
作品名:赤のミスティンキル その後の物語 作家名:大気杜弥