赤のミスティンキル その後の物語
(二)
ここはかつて、魔導が封じられていた場所。ミスティンキルとウィムリーフが魔導の封印を解いた場所であった。
ここからならば元いた世界に帰ることができる。そう言い残し精霊は去ろうとした――その時。
「ウィム」
精霊の本質をようやく見抜いたミスティンキルが口を開いた。
「君はウィムリーフだ」
精霊の身体から青い光がまぶしく広がって周囲を覆い――光が止んだ時、そこにウィムリーフが立っていた。 ウィムリーフは嬉しそうでいながら悲しそうな表情を浮かべ、ミスティンキルに言った。
「ずいぶんと遅かったじゃないの、ミスト。すっかり待ちくたびれちゃったわよ」
◆◆◆◆
ウィムリーフもまたミスティンキル同様、意識だけの存在となっていた。彼女はこうなったいきさつを告げる。
あの時――魔導を解放した時、核の中にはフィエル・デュレクウォーラの意識も潜んでいたのだ。
この魔女はかつて魔導王国が滅びる際、龍たちの炎によって焼け死んだ。しかし、その意識だけは執念深く残り続け、その後の大いなる災いを経て魔導を“月の界”に封印することになるまで魔導塔の核の中に潜み、月の“封印核”の中においては、ユクツェルノイレと共に長きにわたって眠り続けていたのだ。解放される時を待って。
魔女の意識は、魔導の封印が解かれると同時にウィムリーフの体内へと入り込み、代わりにウィムリーフの意識を押し出した。ウィムリーフの人格はその後も彼女に残ったものの、時が経つにつれて徐々にフィエルの人格が強まっていく。ラミシスの島へと冒険することになったのは、ウィムリーフの意志ももちろんあったが、フィエルの意志もはたらいていた。
彼らが冒険を続け、オーヴ・ディンデに至ったとき、ウィムリーフの身体は完全にフィエルの意識に支配された。と当時に、ウィムリーフの意識は彼女の体内にあるのではなく、遙か遠く“月の界”にあるのだと、はじめて彼女の意識が単独で覚醒することとなる。
依り代を失い、意識のみの存在となったウィムリーフは、月で生きていくために精霊となることにした。ミスティンキルが気づかなければ、彼女の意識は元に戻ることもなく、そのまま精霊として生を終えていただろう。
◆◆◆◆
ミスティンキルは、赤龍へと姿を変えていた。魔導師となり世界の理《ことわり》を理解した彼は、ついに龍化を果たしたのだ。
そしてフィエルとの決着を付けるために、龍はアリューザ・ガルドに戻るとウィムリーフに告げた。
ウィムリーフは迷うことなく、彼について行くと告げる。彼女は精神の繋がりを通して、フィエルのことを深く知ることができたのだ。意識のみの存在である彼女は、物質界であるアリューザ・ガルドではあまり長い時間活動することはできないだろうが(ミスティンキルもそうであろうが)、またとない力になる。
ミスティンキルとウィムリーフは強く願い――“月の界”から脱した。
作品名:赤のミスティンキル その後の物語 作家名:大気杜弥