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三年目の同窓会

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 旅行で出会った恵、彼女とは、身体を重ねた。だが、それは最初から一回きりという二人の約束の元、愛し合った、まるで蝋燭の炎が灯っている間だけの愛情だった。
 だが、坂出の中では、今までに付き合った誰よりも長く感じられ、初めて癒しを与えられた気がした。
 恵にしても同じだった。
 坂出の中に、何かわだかまりがあることは分かっていた。分かっていて、受け止めてみると、そこには果てしない底の見えない大きな溝が広がっている感じがした。
――私では、とても癒しきれない――
 と、思ったが、却ってその方が、気は楽だった。
 一度きりの愛情を通わせることで、お互いのストレスや、抱えてきた苦しみを少しでも和らげたいという気持ちから、相手に優しくなれるからだ。
 このことは、坂出は誰にもいうつもりもない。もちろん、恵も同じである。人に話したから色褪せるものではないが、相手を冒涜しているようで、それが嫌なのだ。
「誰かと一緒にいることが、これほど素晴らしいことだなんて、思いもしなかった」
 女を抱くことに、今後不安があり、今のままでは絶対にできないと思っていた坂出は、恵によって救われた。それは、恵にも同じことが言えるだろう。
「この人のことは一生忘れることはないわ。この人がどんな人であったとしても……」
 そう思いながら、抱かれていた。
 気が付けば、二人とも涙を流していた。相手が涙を流していることは、お互いに分かっていたはずなのに、そのことに触れようとはしない。触れてしまえば、すべてが壊れてしまう気がしたのと、触れる必要など、どこにもないからだった。
「私には癒しきれないと思っていたのが、ウソみたい」
 坂出の顔を見ていると、どんどん癒された顔になっている。
――私なんかでよかったんだわ――
 この思いだけでも、これからの自分を見つめていくことに十分だと、恵は感じていた。今後の人生がどうなろうとも、この思いを忘れなければ、男に裏切られたり、男を裏切ったりと、自分が後悔するようなことはしないだろうと思ったからだ。
 恵も、坂出も、以前持っていた自分に対しての自信がまったく無くなっていたことに、その時同時に気付いたのである。
「この人とは、最初で最後だなんて思いたくない」
 自分が言い出したのに、すでに、気持ちが揺らいでいた。坂出の方も、気持ちが同じようで、お互いに、相手のことを自分にとって必要な人間だと思うようになっていた。
 川崎も、亜由子も、さらには、直子もそんなことは知らない。同窓会メンバーの愛憎絵図の中から、次第に坂出が抜け出していくのを知っているのは、誰もいない。
 ただ、坂出が輪の中から抜けることで、均衡を保っていた愛憎絵図の一角が崩れ、正常な関係に戻るかも知れない。
 一つの歯車が狂ってしまうと、それを修復するのは困難である。それは皆分かっているつもりだが、自分がその中に入ってしまうとなかなか分からないものだ。
「自分だけは別格だ」
 と思い込むからに違いない。

 坂出は、今どこにいるのだろう?
 亜由子も、もう坂出を探そうとはしない。欠落した記憶を思い出そうとはしたくないということだった。それは坂出がいなくなったから気付いたことであって、
「これでよかったのよ」
 と、さっぱりした表情になった。
 結局、亜由子が坂出の本当の妹なのかということは分からずじまいだったが、もう川崎にとっても、亜由子にとっても、どうでもいいことだ。
 二人は、急激に接近し、付き合うようになっていたのだ。それを結び付けてくれたのは、坂出が通っていたスナック。ママと話をしているうちに、次第に打ち解けてきて、ここで二人の愛が育まれていくことに気付いたのだ。ママは、二人にとっての「恋のキューピット」であった。
 直子はというと、完全に同窓会メンバーの中から姿を消した。三年目の同窓会に来なかったのは、その前兆だったのかも知れない。
 鍋島由美子は、相変わらず、坂出が戻ってくるのを待っているようだが、こちらも、それほど強くは思っていない。会社の中の一人の事務員として、自分を見つめなおしているようだった。
 譲と恵子は、結局離婚した。だが、円満離婚であり、お互いに、しこりが残ったわけではない。
「友達に戻っただけよ」
 と言っていたが、それが恵子の本心かどうか分からない。考えてみれば、今回のことで、一番蚊帳の外だった同窓会メンバーは、恵子だった。そういう意味では、恵子が一番「まとも」、いや、「人間らしい」人間だったのかも知れない。そう思うと、川崎は、恵子のことは、これからも普通に友達として接すればいいのだと思えた。
 譲の方であるが、どうやら、恵に対しての思いがその後、復活してきて、沸騰しかかっているようだ。ノイローゼのようになっていて、人をまわりに寄せ付けない雰囲気になっているらしいが、その後、しばらくして、入院したという。まわりの誰かがたまりかねて、入院させたのだろう。
 回復に関しては、耳に入ってこないが、川崎にはもはや関係のないことに思えたのだ。
 同窓会メンバーが、それぞれに別れてしまい、リーダーである坂出が最初にいなくなったのだ。川崎の役目がどこにあるというのだろう。
 もう二度と集まることのない同窓会メンバー、川崎は、たまに思い出していたが、もう二度と他の人たちのことは思い出さないようにしようと思う。
 そう、もうすぐやってくるのだ。「三年目の同窓会」、つまり、卒業してから、六年目の春のことであった……。

 ただ、この話が、今のお話ではなく、数十年前の話だったらと、思わないでもないのは、他人事として書いている私だけであろうか……。

                (  完  )



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作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次