サンタクロースパイ
色んなモノをあげてるけど、サンタクロース自身は何が好きなんだろ?もし、店長さんの言う通り、酒や煙草が好きなら俺と真逆だな)そうして、霧河は眠りについた。
そして、4日経ち、今日もまた出勤する。今日は、2010年12月10日(金)。今日も会社で、クリスマスの話をたくさん聞いた。もう、社内の風景も、クリスマス風の飾りつけがなされ、オシャレになっている。
時間が経ち、18時30分。
「あぁ~!今日も仕事が終わった~!!」
霧河は伸びをしてそう言った。
「クリスマスが少しずつ近づいてきてるな」
しみじみ思った。
クリスマスは霧河にとって、
1年の中で1番好きなイベントだ。だから、
今年も、とてもワクワクしているのだ。
「ジングルベ~ルジングルベ~ル、鈴が鳴る~!!♪」
無意識のうちにそんな歌まで口ずさんでいた。
そして、帰る前はまた、あちこちで盗み聞きによるプレゼントの調査。今夜もまた、
あちこちから「今欲しいのは〇〇」という、
クリスマスを待っている子供達の、楽しそうな声が聞こえてくる。「俺も楽しみだな!♪」
と霧河は言った。
それで、たまにある平日の
仕事の休みの日には、数週間前のように、
学校のそばなどでも子供達のほしがっているモノを聞いたりした。
で、時間のある時に、
調査して、メモ帳に書いた、子供達の欲しがっているモノを少しずつ買い、そんな事を
繰り返し、時間は流れて、クリスマス・イヴが来た。
2010年12月24日(金)。
もちろん、会社でも、
「今日は子供に〇〇をあげるの」や
「家族と一緒にクリスマスケーキを食べたり
フライドチキンを食べたりしてクリスマスパーティをするんだ」などという声がたくさん
聞こえてきて、霧河は、
(良いな~!良いな~!賑わってるな~!
クリスマス最高!!♪)と思った。
そして、霧河は家に帰り、サンタクロースの衣装を着て、子供達が欲しがっているモノを袋に詰めて、ちょうど日付が12月25日(土)
(クリスマス)に変わった時、出かけた。
本来、サンタクロースというのは、赤い服を着て空飛ぶソリに乗って、それをトナカイに引っ張ってもらって移動するものだが、
彼は、全く違う。
地に足を踏みつけて移動する。自転車に乗って移動し、金属の棒を使ってサムターン回しなどの
ピッキングで扉を開ける事によって入り、
色んな家にプレゼントを届けている。
夜空の下や真っ暗な家の中でも目立たなくするため、黒い服を着て、黒い帽子を被り、
黒い手袋をつけている。
移動手段に自転車を使っているのは、
大きな音を立てないようにして、警察や周りの人達に出来るだけ
バレにくくするためで、手袋は、ドアや色んなモノに
指紋を付けないため。もちろん、自転車も真っ黒、
手袋も真っ黒。
子供達に渡すプレゼントももちろん、全て手袋をしている状態でしか触れた事がないので、
指紋は一切付けていない。
霧河は、家を出て、まず最初に、「犬の人形が欲しい」と
言っていた女の子の家へ向かった。
そして、金属の棒を使ってカギを回し、ドアを開けた。
〝ガチャ〟
念のため、霧河が他人の家に入っているその間にも、泥棒などが
入ってこないようにするため、いつも、入ったらすぐ、内側から
手袋をつけた手でドアのカギをかけている。
〝ガチャ〟
「なるほど。こういう家か~」と思いながら霧河は、出来るだけ
足音を立てないように気をつけながら、
ペンライトを使って歩きながら、女の子の部屋を探し、
その部屋に入った。
〝キー〟
そこには女の子が寝ていた。女の子らしく、
可愛いモノやオシャレなモノでいっぱいだった。
「へ~。女の子らしい部屋だな~!」と霧河は思った。そして、
枕元に犬の人形をそっと置く。
そうすると次の瞬間、女の子はたまたま目を覚ました。
目をこすり、
「トイレ~・・・」と言った。
霧河は慌て、
「あっ!マズい!!」と壁に頭をぶつけた。
女の子が
「え?誰かいるの!?」と言って、電気を点けた。すると、霧河の姿が見えた。
女の子は「キャ~!!!」と叫んだ。
霧河は慌ててその娘の口を自分の手で抑える。
「シ~ッ!!」と言って、その娘を静かにさせた。
「は~。危なかった。もうちょっとで君のお父さんやお母さんまで起きてしまうところだった」
女の子は一旦トイレに行って、戻ってきてから2人で話をした。
「さっきはごめんなさい・・・」
「ごめんなさい・・・か。変な感じだな。
本来なら、それはこっちが言うべき事なのに」
「お兄さんは、一体誰?」
「う~ん・・・そうだな~」
霧河はスパイのように、子供達にクリスマスプレゼントを配っている事から、
とっさの思いつきで、
「俺は〝サンタクロースパイ〟だ」と言った。
女の子はポカンとして、
「ロース・・・?パイ・・・?ロースパイ・・・?何それ?
美味しいの?」と言って、
霧河はズッコケた。
「あのね~!俺は食べ物じゃないよ!!」と言った。
今の女の子の一言で、今度は霧河が思わず大声を出してしまった。
今度は女の子が「シ~ッ!!」と言う。それに対し、
霧河は、小声で「すっ、すみませんっ!!」と言った。
女の子は、霧河に、
「お兄さんは、サンタさんなの?」と聞いた。
そう聞かれ、霧河は、
「まぁ、サンタさんといえばサンタさんかな?」と答えた。
「ふ~ん」
「まぁ、皆が思ってるほど、夢のあるモンじゃないし、
そんな良いモンじゃないけどね(笑)。空飛ぶソリも持ってないし、そもそもトナカイ飼ってないし、家に入るのだって、
この金属の棒を使ってカギを開けてるし」
「でも、サンタさんが本当にいたなんて、私、すっごく嬉しい!!」
「え・・・!?」
「だって、この前、友達に〝サンタさんは本当はいないかもしれない〟って言われちゃったから、いるかいないか不安だったから!!だから、今年はお父さんやお母さんに〝プレゼントが欲しい〟って言わなかったの」
霧河は、まさか、そんな事を言ってくれるとは思っていなかった。
(そうだったったのか・・・なんて純粋な娘なんだ!!)
「そういえばお兄さん、さっき言ってたけど、
何で〝サンタクロースパイ〟って言うの?」
「あ~、俺ね、〝スパイ〟みたいなやり方で子供達にプレゼントをあげてるからさ」
「そうなんだ~」
「うん」
「でも〝スパイ〟ってなぁに?」
「〝スパイ〟っていうのは、コッソリ何かのグループや他人の事を調べたり、建物の中とかに忍び込んだりする事だよ。ホントは
あんまり良い事じゃなんだけどね・・・」
「へ~」
「だから、真似しちゃダメだよ!!それに、俺の事は、もちろん、たとえお父さんやお母さんだろうと、他の人達には言っちゃ