サンタクロースパイ
「〝サムターン回し〟という手口で家の外から金属の棒を使ってカギをこじ開け家に侵入され、モノやお金が盗まれた」という事件があちこちで起こっていると知った。
謎留は、
(そうだ!大人になったら、このやり方で色んな家に入って色んな子供達にプレゼントを渡そう!そうすれば、自分が憧れのサンタクロースになれる!!)と思った。それと、
家のドアというのは、〝サムターン回し〟で開けられるモノばかりではないので、色々なピッキングのやり方も学んだ。
しかし、
何ともまぁ、狂った発想だった。いくら他人にモノを渡そうが、〝サムターン回し〟やピッキングは犯罪だ。だが、この時、
謎留は、そうやってたくさんの子供達に
プレゼントを渡せば、
両親が死んだ時にポッカリと開いてしまった、大きな心の穴を
埋められる気がしたのだ。
―そして、情景は戻り、霧河の自宅・・・―
〝ガバッ〟
「は~、夢か~」そう、今のは夢。
「網田謎留あみだなぞる」は霧河の本名であり、
「霧河竜令 (きりかわりゅうれい)」というのは、実は、偽名である。
そして、
さっきまで見ていた夢は、霧河自身の実体験なのだ。
そう、彼は毎年、クリスマスに、スパイのようなやり方で色んな子供達に
プレゼントを与えているのだ。
これは霧河が毎年、冬に
調査をして、クリスマスに色んな家でプレゼントを渡す
〝サンタクロース〟となるきっかけ、全ての始まりだったのだ。
ちなみに偽名は、万が一何かあって、「クリスマスに色んな家に
サムターン回しなどの
ピッキングで入っている人間がいる」
という事が世間に知られた時にそれが自分だと特定されないようにするために使っている。
もちろん、
前日していた「盗み聞き」による調査も、
クリスマスの夜に色んな子供達にプレゼントを渡すために行っていた事だ。
霧河はリビングへ移動した。テレビを観ながら朝食を食べたり、コーヒーを飲む。
それから数日後、霧河はいつものように仕事へ向かう。今日は、12月6日(月)だ。
会社でも、「クリスマスプレゼントは〇〇が
・・・」などという声が何人もの人から聞こえてきた。
その中には、霧河と同じように、幼い頃、サンタクロースを信じていた者、
子供がいて、その子供にクリスマスプレゼントを渡す者もいる。
霧河は、(へ~。やっぱり、大人でも、クリスマスが好きな人が多いんだな)と思った。
ある女性社員が霧河に
「霧河君、サンタさんって、本当にいると思う?」と尋ねてきた。
それに対し霧河は、
「あ~、昔は信じてたよ」と答えた。女性社員は、「そっか。私と同じね」と言う。
霧河は、
「え?」と言った。
女性社員は、「だって、
そもそも、良く考えたら、遠い国から空飛ぶソリで色んな国に行って、たくさんの家の子供達にたった一日でプレゼントを渡すなんて、出来るワケないし、疲れるじゃん(笑)。
しかも、おじいさんがよ(笑)」と言った。
「確かにそうだね(笑)」
「でも、あたし、何であの頃は本気で信じてたんだろ?」
「・・・・・・」
その時、霧河は、自分と彼女が重なった。
(そうだよな~・・・俺も昔は本気でいると思ってたんだよな~・・・)と思った。
彼女は、「でも、毎年、自分が寝てる間に
枕元にプレゼントを置いてくれてたのはお母さんだって知った時はショックを受けたわよ。
〝サンタさんはいなかったのか〟って。でも、
プレゼントをもらえるなら、別にサンタさんがいない事には困らないのに。何でだろうね?(笑)」と言った。
それを聞いて霧河は、
(確かに。言われてみれば、そんな事考えた事なかったな。そういや何で、クリスマスにプレゼントをもらう時は、サンタさんにもらいたいんだろ?別の人からもらっても、欲しいモノは手に入るのに)と思った。
それは、霧河が今まで抱いた事のない疑問だった。
やがてその日も夜になり、仕事が終わった。
伸びをして、「ん~!疲れた~!今日も仕事が終わったな~!!」と言った。
そして、
帰る途中、この前も行った「喫茶窓際族」に
立ち寄った。そう、前に来た時に、店の雰囲気も良くて、店長がとても良い人だったから、霧河は、この店がとても気に入ったのだ。
〝カランコロン〟
「いらっしゃい」
「すいません。今日はブラックコーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
〝コト〟
店長はまた、霧河に話しかける。
「久しぶり!お!今日はコーヒーかい?」
「はい」
「コーヒーも好きなんだね」
「まぁ」
「この前はコーンスープだったけど、今日は
コーヒー。大人らしい飲み物も飲むんだな」
「はい」
〝ジュー〟
そこで店長も、霧河にクリスマスの話をした。
「そういや、もうすぐまたクリスマスがやって来るね。お客さん、何が欲しいんだい?」
「え?クリスマスって、大人がプレゼントを
もらうモノじゃないでしょ?」
「そうだけどさ、何か欲しいとは思わない?」
「ん~・・・大人になってからは、考えた事がないですね」
「そうか。で、子供の頃は、サンタクロースを信じてたかい?」
店長のおじさんもそんな事を聞いてきた。
「はい。信じてましたよ」
「そうか。俺も昔は信じてた」
「え?店長さんも?」
「ああ。でも、いつから信じなくなったっけな~。でも、サンタクロースって魔法使いなのに、何で子供の頃はあんなに素直に信じちゃうんだろうな。不思議だな」
「そうですね。なぜか信じちゃいますよね」
「うん(笑)。でも、子供の頃を思い出すと、何か懐かしくなるな」
「はい」
「そういえば、サンタクロースの好物って何だろう?」
「え?」
そういえば、霧河は、そんな事を考えた事は
なかった。
「サンタクロースもオッサンだから、やっぱ
酒とか煙草とか?クリスマスは、深夜に活動するから、ブラックコーヒーも飲むのかな?
まぁ、本当はいねぇから、考えても仕方ねぇけど(笑)」
「そうですね(笑)」
「ブラックコーヒーか。そういえば、昔は俺も、飲めなかったな~。それが大人になると
こうやって好きになるから、人の味覚の変化って不思議だな」と霧河は思った。そして、
霧河は、コーヒーを飲み干し、
喫茶店を出て行った。
〝カランコロン〟
「ありがとうございました」
帰った後、霧河は店長との会話を思い出した。
「久しぶりにあの店長さんと交わした会話、
楽しかったな~。しかし、なかなか普通なら
考えない事を考えてるんだな。面白い」
そして、布団に入った。
(サンタクロースの好物・・・か~。そういや、絵本とかにも、そんな事は書いてなかったな。サンタクロースは、色んな子供達に