サンタクロースパイ
あっちこっちでそういった言葉を聞き取る。
別の家の庭では、
別の女の子が「マフラーが欲しい」、そのまた別の家では、
またまた別の女の子が「マグカップが欲しい」などと言っていた。
「なるほど、女の子はオシャレなモノや可愛いモノが好きなんだな」、
霧河はそう言いながら黙々とメモを取っていた。他にも、
調査を進めていくと、ある家庭の男の子が
「〝グロリアスライダー〟の変身セットが欲しい!!」と言っていた。
「なるほどね。特撮モノが好きとは男の子らしい。俺も昔、めっちゃハマったな」と
言いながらまたメモをとる。色んな家庭を見てみれば、「電車のおもちゃが欲しい」と
言っている子もいて、「剣のおもちゃが欲しい」と言っている子もいた。
(ふむふむふむふむ。なかなか皆、良い趣味してるな!)と思った。そして、そこで、
その日の調査が終わった。
(なるほどね。特撮モノが好きとは男の子らしい。俺も昔、めっちゃハマったな)と思いながらまたメモをとる。色んな家庭を
見てみれば、「電車のおもちゃが欲しい」と
言っている子もいて、「剣のおもちゃが欲しい」と言っている子もいた。(ふむふむふむふむ。なかなか皆、良い趣味してるな!)
そして、そこで、
その日の調査が終わった。自宅に帰った後、布団に入って、その日聞いた、子供達の色んな言葉を思い出した。
(やっぱり皆、カッコ良いモノや可愛いモノが好きなんだな~)
―ここで突然だが、情景が変わる―
季節は、今と同じ〝冬〟。
12月に入ったばかりの頃だった。
名札に名前が書いてあるが、
「網田謎留あみだなぞる」という名前の小学生の男の子が自分の両親に
「ねぇねぇ!今年のクリスマスは
サンタさんからギター(アコギ)を
もらいたい!」と言っている。
それに対し、
母親が「ギター?ずいぶんとぜいたくなモノが欲しいのね」と言う。
謎留は、
「だって、僕、小学校の音楽の授業で吹く
〝リコーダー〟は全然吹けないし、それだったら、何か別の楽器が出来るようになりたいし、テレビとかでギターを弾いてる人見てたら凄くカッコ良いもん!!」と言う。
隣の父親は、「そっか。もらえると良いな!!」と言った。
それから時間が経ち、クリスマスイヴの夜、「ギター、もらえると良いな!!」と思いながら謎留は眠りについた。
翌朝、
目が覚め、起き上がってみると、ギターケースがあった。開けてみると、
なんと、本当にギターが入っていたのだ!!
「わ~!やった~!!」謎留は大声を上げて興奮する。
「お父さんお母さん~!見てみて~!サンタさん、本当にギターくれたよ!!」と母親に言った。
「良かったわね!!」と
母親は微笑みながら言った。
父親も微笑み、
「良かったな!上手くなるように、しっかり
頑張るんだぞ!!」と言った。
謎留は
「うん!!」と嬉しそうに頷いた。
しばらくしてからの事。ある日、謎留の父と母は
謎留に少しの間だけ家の留守番を頼み、車で
料理の食材を買いに行った。
そこで対向車にぶつかり、交通事故に巻き込まれてしまった。2人は、運悪く即死。
ぶつかった車の運転手は、
飲酒運転をしていたのだ。もちろん、
その運転手は逮捕されたが、失われた2人の
命は決して戻ってこない・・・
その頃、謎留は
「それにしても遅いな~。どうしたんだろ?」と、何も知らずに待っていた。
だが、謎留の両親が死んでしまった事は、後に親戚から聞かされた。
謎留は、何日も何日も、泣き叫び、悲しんだ。もちろん、
両親が死ぬ原因にもなってしまった〝酒〟も
「大人になっても絶対飲まない」と決めた。
それから、謎留は、両親の死を謎留に教えた親戚の夫婦の家に移り住み、その親戚の夫婦に育ててもらう事となった。
そしてまた、
12月になり、クリスマスが近づいてきた。
その頃、その夫婦の旦那さんの方は仕事で外に出ていたが、おばさんは、
「もうすぐクリスマスだけど、サンタさんから何をもらいたいの?」と謎留に聞いた。
だが謎留は、
「う~ん・・・何かな~、もうサンタさんから何もらっても、すぐに自慢できるお父さんもお母さんもいないしな~。何でも良いや」と、なげやりな事を言った。
おばさんは、
「そうね~、もう、謎留君の両親は、謎留君にプレゼントをあげる事も出来ないしね~」
と、何か寂しがっているような表情で言った。
謎留は、その言葉の意味がどういう事なのか
気になった。
「おばさん、今言った事、一体、どういう事なの!?」と聞いた。
おばさんは、慌てて自分の口を手で抑え、
「しまった!口が滑っちゃった!!」と
思った。謎留は何度も聞いた。
「ねぇ、おばさん!答えてよ!!教えてよ!!何か知ってるんでしょ!?」と、大声で聞いた。
「仕方ないわね~。話すわ」と言って話してくれた。
おばさんの話によれば、
毎年、クリスマスに謎留にクリスマスプレゼントを渡していたのは、実は、
サンタクロースではなく、謎留の父親と母親だったのだ!!
謎留の父親も母親も、サンタクロースの存在を信じている謎留の夢を壊さないようにするために、毎年、謎留に
「クリスマスは毎年、サンタクロースが家に入って、プレゼントをくれる」と嘘をつき、
謎留が「欲しい」と言うモノを毎度用意し、それをクリスマスが来るまで家のどこかに隠して、
謎留が寝ている間の、ちょうどクリスマスの深夜に、枕元にプレゼントを置いていたのだという。
おばさんは、前からその事を本人達から聞いていたので知っていた。
それをおばさんの口から聞いた謎留は、
「サンタクロースは本当はいない」という事実を知ったショック以上に、
自分の夢を壊さないように、毎年、わざわざ嘘をついてバレないように気をつけながら、
密かにプレゼントを用意して、そっと渡してくれていた親の愛情と優しさに感謝、感動し、
嬉しさのあまり、大泣きした。
「あんな高いギターまで・・・!!お父さん・・・お母さん・・・うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫んだ。
しかし、もう、この感謝と感動は両親が亡き今、伝える事は出来ない・・・
おばさんは、泣き叫ぶ謎留を抱いて、
優しく背中をさすり、もらい泣きした。
「謎留君のお父さんもお母さんも、本当に
良い人だった・・・謎留君にプレゼントを
あげる事、毎年、楽しそうに話してたわよ」
やがて成長し、
高校生になった謎留は、冬のある日、かつての自分と同じように、サンタクロースを信じている子供達を見た。
「そうだよな~。良く
考えてみりゃ、魔法でも使えなきゃ、サンタクロースみたいに、どこかの誰かの家に入ってモノをあげるなんて出来ないよな~」と小声で言った。
しかし、数日経って、テレビのニュースで