オヤジ達の白球 41話~45話
1番バッターがバットを振る間もなく、熊の一球目を見送った。
手が出なかったわけでは無い。
ストライクゾーンへボールがこなかったからだ。
熊の手を離れた球は、捕手の頭上をはるかに越えた。
大きな音を立てて、バックネットの金網に突き刺さった。
「なんだ。見にくいと思ったら、すっかり日が暮れていたのか。
どうりで目標が見えないはずだ」
こんなものは邪魔だと、熊がサングラスを外す。
だが顔が露呈するのはまずい。
(これならわからないだろう」と帽子のひさしを目深にさげる。
そのまま2球目の投球にとりかかる。
「今度はまともに行くぞ。覚悟しろよ。打てるのなら、打ってみろ!」
するどい腕の振りから、インコースめがけて速球が飛んでいく。
「もらった!」1番打者が腕をたたむ。インコースぎりぎりの球を渾身の力で打ちに行く。
しかし。速いと思われた球が、バットの手前できゅうに失速していく。
そのままワンバウンドして、捕手のミットへおさまる。
満身の力がこめられたバットは、球速をうしなったボールの手前でむなしく空を切る。
「チェンジアップかよ・・・
腕の振りの早さに、すっかり騙されちまったぜ・・・」
「甘く見るなよ、1番バッター君。
この投手は、さっきまで投げていた新米投手とは大違いだぜ」
「たしかに。見事な投球です。
速球でくると見せかけて、実は途中から急ブレーキがかかるチェンジアップ。
たしか、そんな投球を得意とする投手がいましたねぇ。
本名は知りませんが皆さんからは、北海の熊さんと
呼ばれていたようですが・・・」
なつかしいですねぇと千佳が、うれしそうに笑う。
(42)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 41話~45話 作家名:落合順平