赤秋の恋(美咲)
援助交際
美咲と宏が待つ、ラブホテルのエレベーターから出てきた男女は、40歳代の男と、まだ若い女であった。宏はその女性に見覚えがあると咄嗟に感じた。足利駅で切符を届けてくれた、親切な高校生のような女性なのだ。わずかなすれ違いの時間であったが、それに照明は暗く、人違いかも知れないと、宏は思いたかった。
車庫に行き、車に乗ってしまうとそのことは頭から離れた。美咲と佐野のアウトレットに行く約束をしたからだ。
「いくらまでおねだりはいいの」
「3万円くらい」
「ありがとう。優しいのね」
宏は美咲との楽しい時間の代償は、それ以上でもよいと思っていたが、最初から言いなりに金を出してしまうと歯止めが効かなくなってしまうだろうと考えていた。宏はまた美咲に会いたかった。
アウトレットの中で、美咲は宏と腕を組んだ。嬉しいことであったが、反面、知り合いに出会わなければいいなと思っていた。足利と佐野は隣町なのだから、出会う確率は高い。教師時代の教え子がいるからだ。腕さえ組んでいなければ、なんとか誤魔化せるのだが、美咲にそれを言い出すことが宏にはできなかった。幸い店に入ると、洋服選びに夢中になって、宏から離れた。店にいる女性の客の顔は楽しそうだ。
「3万円すこし出るから、それは自分で出します」
美咲はそんなことを言ったが、宏は4万円美咲に渡した。ここでケチれば、美咲にこれきり会えなくなることが予想されたからだ。宏は美咲が金目当てであることは初めから、感じていたことであった。75歳の男で既婚であれば、肌を合わせてくれる女性がいることだけで不思議なことだ。宏はそうだと分かっていながら、不倫のように、お互いが好きになれたらよいと思ってもいたのだ。
気に入った洋服を買えた美咲は嬉しそうだった。足利まで送って行くと言ってくれた。宏はその言葉は嬉しいのだが、人目についてしまう。
「佐野駅にしてくれないかな。知り合いに会ってはまずいからね」
美咲はスマホのナビを佐野駅に指示した。10分足らずで佐野駅に到着した。
「メール入れるから」
宏は車から降りるときに美咲に言った。美咲はバイバイと手を振ってくれた。
電車が来るまで5分ほど時間があった。数時間の体験であったが、宏は自分の生きる価値観が変わってしまうほどの変化を感じた。