赤秋の恋(美咲)
電車に乗ると乗客は5時前でもありまばらであった。そのまばらな乗客の中に、切符を届けてくれた若い女性が座席に座っていた。宏はラブホテルのことも気になりだした。女性の隣に座った。女性はスマホを見ているので、宏であることには気づいていない。
「今朝は切符ありがとう。またお会いできるのは偶然ですね」
「3度目」
宏は彼女からそのような言葉が出たことに唖然とした。
「電車降りたら何か食べに行きましょう」
「だったら、フラワーパークに行きませんか?」
宏は承諾した。高校生のような女性なら知り合いに会っても言い訳ができるような気がしたのだ。
藤の花の時期ではないし、イルミネーションも終わっているから、入園者は少ないが、人混みがない分、バラの香りがさわやかに感じた。
「君はいくつなの?言いたくなければいいよ」
「18歳です。今度大学生になります」
「3度会ったと言うから、ラブホテルで会ったんだね」
「えぇ」
「年齢的に考えて、援助交際だよね」
「そうですよ。大学の入学金、親戚から期限付きで借りたの」
彼女は少しも悪びれた様子を見せない。初対面の宏にすらすらと話した。
「立ち入ってごめん。借りたお金はいくら?」
「50万円ですよ」
「援助交際でいくらになる」
「平均3万円くらいかな」
藤の花を選定している植木職人が3人ほど仕事をしていた。
「ご苦労様です」
宏は自然に言葉をかけてしまった。
「これをしないとよい花が咲きませんから」
職人は言葉を返してくれた。
若い女性が3万円を手に入れる方法。宏が3万円を洋服代で渡すお金。植木職人は3万円を手に入れるには幾日働けば良いのだろうか。
「奨学金のつもりでいいですよ。今日会ったばかりだから、借用書は書いてもらいますが、50万円はお貸ししましょう」
「ほんとですか」