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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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赤秋の恋(美咲)

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夜間従業員


宏の工場は自動車の部品を作っている。孫請けなのだが、納期は実に厳しい。絶対に納期は守らなければならないのだ。宏の判断で仕事を多めに受注したが、残業をしなければ生産が間に合わなくなった。10人ほどの従業員の7人がパートの主婦であるから、5時過ぎの残業は無理であった。やむなく、5時から10時までの夜間のパートを募集した。昼間の時間給は900円なのだが、夜間は1200円にした。
 求人広告のほうが早く見つかるが、ハローワークに依頼した。3日後に、ハローワークから電話が入った。実際に欲しい人手は2人なのだが、多分辞める人が出ると思い、3人受け入れる旨応対した。
 履歴書を見ると、斎藤百合の名字にもえを思い出した。ただそれは一瞬のことであった。大森愛子。茅島吹(すい)と採用した3人の名前を早く覚えることに集中した。斎藤さんが38歳。大森さんが43歳。茅島さんは31歳であるが、3人が似ていて、年齢の差は宏には全く分からなかった。
 夜間の仕事に応募する人たちは、経済的に困っていることは、ある程度宏も分かっていた。1番若い茅島は、1週間働いた日に前借をしたいと言った。5万円くらいなら、働いた賃金に近いから、渡そうかと考えたが、10万円必要だと言った。家庭があり3人家族である。履歴書には夫も運送会社の運転手で働いている。宏は迷った。このまま辞められれば5万円の損失だが、貸さないで変な噂を流されるのも嫌であった。
「15万円お渡しします」
「借用書は?」
「茅島さんは従業員ですから要りませんよ」
「すみません。昼間は暇でパチンコやっているんです」
「依存症にならない程度がいいですよ」
「ここに勤めるまでは夜も行っていました。良かったわ。仕事をするって・・」
「こちらこそ助かっています。茅島さんには期待しています」
 彼女は指定の休み以外は休まず5時間働いてくれた。
大森さんは独身であった。履歴書からは離婚歴は分からなかった。とてもまじめに働いていて、なぜ結婚しないのかと思うほど、家庭的な女性に思えた。通勤の車はレトロな感じのビュートである。新車であれば350万円くらいする。家庭的な雰囲気からは想像できないが車が好きなのだろう。この車のために夜も働いているのかもしれないと宏は感じた。
 駐車するときも少し遠いところであるが、ゆったり駐車できるところまで行っていた。車はいつもきれいに磨かれていた。黒のメタリックだから、ほこりが目立つが、それが見えない。
 あまり行ったことのないレストランにランチを食べに1人で行った。そこに大森さんがいた。化粧した顔は初めてであるから、宏は美人だと思った。すぐに、大森さんに迷惑にならないように、まだ注文前だったので店を出た。 
 店を出てから、別な人かもしれないと思った。すぐ近くの回転すしに入ったが、大森さんのことが気になった。
 斎藤さんは3人の中では1番の美人かも知れない。化粧はしっかりしていた。会話も話しかければすぐに答えて来た。
 宏が付き合い始めた美咲よりはるかに美しい。もちろん従業員に女としての感情は持たないことが、宏の信条であるから、会話もごく世間話で済ませた。
 ある日、会話の中で
「娘が大学に進学したばかりで、想像以上に出費が多いです」
と言った。
 宏は御嬢さんの名は、と訊こうとしたが
「差し支えなければどちらの大学に行かれたのですか?」
 と訊ねた。
「東京の大学です」
「そうですか」
 まだ訊きたかったが、宏はもえの母親に違いないと思った。
作品名:赤秋の恋(美咲) 作家名:吉葉ひろし