赤秋の恋(美咲)
ハグ
美咲と肌を合わせるのは3度目となった。逢うたびに、美咲への愛が芽生えてしまいそうであった。その気持ちは、美咲から感じる、セックスへの興奮が初めての時のように感じられなくなったことと関係していた。美咲の刺青を見ても、驚きは失せ、刺激も感じなくなった。乳房の唇に触れるときだけは、美咲の唇に触れた時よりもはるかに興奮した。
ホテルでは肌を合わせることよりも、世間話の時間のほうが多くなっていた。もちろん、美咲との約束は、身体の関係だけであった。それは宏自身の示した条件であった。宏は家庭は守りたいと思うからだった。
看護師の美咲は、行為が終わった後は、脈拍を調べてくれ、今日は血圧計まで用意していたのだ。興ざめしてしまいそうであるが、宏は、自分は高齢なのだと自覚することにしたのだ。思い出してみれば、美咲と身体を合わせる時、美咲は宏を気遣ってくれている様子であった。美咲自身は満足しないような、スローセックスであった。
そんなゆったりした時間の中で、宏はもえを思い出すのだった。そしてもえの母親のことも浮かんできた。絶対に手を出せない、もえと、母親は、だからこそ、宏の心の中にいるのかもしれない。その気持ちが、美咲への愛に代わり始めたのかも知れなかった。
別れるとき、宏は10万円を渡した。
「ラッキー、今度はたっぷりサービスしちゃうから」
美咲は車から降り、駅前の階段の登り場で、宏にハグをした。まだ地方都市の小山市であるから、人前でハグをする人は珍しい。宏は恥ずかしさを感じながらも嬉しさも感じていた。