赤秋の恋(美咲)
もえは母親の手で育てられた。母親はもえを20歳で産み、その1年後には離婚した。結婚はしないものの、妹が産まれた。もえがその妹と父親が違うことを知ったのは大学に入学するときであった。もえはそんな母の血を受け継いでいると自覚していた。それは無理にそんな風に思い込んだのかもしれない。
小さなころ父親のような男が何人かいたことが、もえは不思議でたまらなかった。さすがに、小学校に入ると、母親は家に男を連れてくることはしなかった。高校を中退した母親が、生きるために、働いている姿が次第に哀れに感じたのは、もえが高校生になってからだった。酒の匂いが1日中していたのだ。36歳と若いし、美人と言われてもいた。でも、学歴がないために、生活していくだけの収入を得るには、水商売だけだったのだ。
美人であるがゆえに、もえの母百合は楽をして金を得る道を選んだのだが、それには、高校中退では、たとえ能力があっても、事務員で雇ってくれる会社はなかったのだ。百合は珠算は1級であり、簿記も2級を持っていたのだ。だが高校中退の経歴は、素行不良とみなされてしまう。もちろん、そうなのかも知れないが、百合は圭を心から好きであった。その交際を生徒指導の教師から咎められ、無視したために停学となり、その謹慎処分の時に、圭といたことが判り、退学となったのだ。もちろん、転校の道もあったのだが、圭も退学して、2人で東京に行ったのだった。
2人のことはここでは省くことにするが、それなりの行動を起こすにはそれなりの理由があるのだ。ただ、百合はもえにその自分の行動が、影響を与えることには無関心であったわけではなかった。自分のしていることが良いとは思ってはいなかった。しかし、他の仕事では満足に生活はできないのだ。
もえが高校生になり、百合は水商売から足を洗ったのだ。もえに肩身の狭い思いをさせたくはなかったのだ。しかし、。その代償は大きな収入減となった。ドラッグストアの社員となったのだが、給与は20万円ほどであった。
もえが大学に進学したいということは、高校入学時から分かっていた。県立の進学校である。就職する生徒はほとんどいないからだ。
百合は夜はコンビニでバイトも始めた。もえには希望の大学に進学させてやりたかったのだ。