赤秋の恋(美咲)
高校教師の時代、今では問題になる言葉かもしれないが、商品には手を付けるな・・と教頭から言われたのだ。20代の時である。その言葉は宏の身体に染み込んでいた。だから若い女性には性的な魅力は感じなくなってしまっていたのだ。
借用書に斎藤もえと書かれていて、彼女の名を知ることができた。
「返済は卒業して働きだしてからで、毎月いくらでもいいからね。それに、僕が死んでしまえば、返す必要はないから」
「返します。絶対にですからね。元気でいてくださいね」
宏はもえの言葉が嬉しかった。元気でいたいと思う。
もえと別れると、今日1日は5年分を生きたような気持になっていた。もえのたくましさのような生き方は、宏には納得のいかないものなのだが、もえの親はどんな風にもえのことを感じているのだろうかと、関心が湧いた。