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わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
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謝恩会(後編)~その手に花束を~

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 この曲は『9mm Parabellum Bullet』というバンドの曲らしく、多くの生徒が文化祭の打ち上げの時に悠里たちが演奏するのを聞いたらしい。「前衛的なロック」を意味するオルタナティブロックとパンクロックを合わせ持つこの曲は、メロディにどこか懐かしい部分もあってぜひやってほしいと生徒から依頼があったそうだ。
 ベースとドラムスティックを貸してくれた彼らが演奏した『ハートに火をつけて』という曲もこのバンドの楽曲だったらしく、サラがきっと彼らも演奏できるはずだと言った。そこで『talking machine』が始まる直前に晴乃が彼らを舞台に引きずり込んだのだ。

 急なオファーに戸惑っていた彼らも今は目の前で踊り狂っている。人を豹変させる恐ろしい音楽だ、と湊人はこっそり思った。

 二度目のサビに入り悠里が声を張り上げて歌うと、二小節ごとに客席から合いの手が入って生徒たちが飛び跳ねた。うろたえていた教師たちも少しずつ飛び跳ね始める。ノリのいい郁哉と隣に座っていた世界史の老教師が一緒になって腕を上げている。奥にいる保護者たちも、そのはるか上の音響室にいる宮浦と陽人も腕を上げている。

 髪を振り乱している悠里がときどき湊人を見る。晴乃も我を忘れているように見えてちゃんとベースラインを弾いている。この曲でもっとも難度が高いドラムをサラが必死に叩いている。湊人は負けじとやったことがないくらい激しくピアノを鳴らす。空間がうねる。悠里たちを中心に渦を巻き、音の竜巻が巻き起こる。観客の合いの手がさらに渦を大きくする。会場全体が一体になって悠里たちの音楽が完成する――彼女たちがやってきたパンクロックの底知れないエネルギーに湊人は翻弄されないよう必死だった。

 歌が終わり、ギタリストの彼が高音域のギターソロを弾く。悠里はカッティングに回っている。サラが目まぐるしくシンバルを叩く。バスドラムが立て続けに空気を揺らす。晴乃は激しくスラッピングを繰り返す。ソロの終わりを見計らって悠里がギターを振りかざす――

「最後いくよ! せーの!」

 悠里が叫ぶと卒業生たちは一斉に教師の方を向いた。

 ――三年間、ありがとうございましたーー!!――

 悠里がギターを振り下すのと同時に、卒業生全員が一斉に声をあげた。教師たちは一瞬あっけにとられていたが、ノリのいい教師が音頭をとって「ありがとうー!」と返してくれた。

 サラが大音量でゆっくりとタムを叩いていく。悠里が高々と振りかざしたギターをかき鳴らす。晴乃はプレシジョンベースを持ち主に返して、男子生徒が最後に高音を鳴らす。観客席から大声援が起きる。激しい拍手が巻き起こる。湊人は立て続けにピアノの高音域を鳴らす。

 終わりたくない、でも終わってしまう――いつまでも鳴りやまない拍手の中、湊人は力の限りピアノを弾いた。