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わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
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謝恩会(後編)~その手に花束を~

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 晴乃がしゅんとした顔を見せると、悠里とサラはそれを鏡写しにしたように「そやね……」と言った。エレキベースからあの大きなコントラバスに持ち替えるのは相当な苦労がありそうだが、心の隅で晴乃のコントラバス演奏を聞いてみたいとも思った。

「俺のベース使えよ」

 楽屋の入り口付近から突然男子学生の声がして、湊人たちはふりかえった。
 そこにいたのは、昨日高校の校門付近で湊人に食ってかかってきた男子学生たちだった。
 4人のうちの一人が晴乃に近寄ってきて、そっとベースを差し出す。

「これ、おまえのと同じやろ」

 差し出されたベースをおそるおそる受け取ると、晴乃は宙にかざしてじっと見つめた。

「ほんまや……色は違うけど、私のと同じプレシジョンベースやわ」

 細かいところまで晴乃が確認していると、サラが晴乃の弦の切れたベースを持ってきた。男子学生のものは赤いボディ、晴乃は白いボディだが、黒いピックガードにローズウッド材の指版がついているらしく、切れた弦をそっちのけでベース談義に花が咲きそうになっていた。

「いやいや、ちょっと待って? あんたら昨日私らにめっちゃからんできたやん。私らのせいで自分たちのバンドが出られへんようになったって、恨んでるんやろ? なんでベース貸してくれるんや。だいたいなんで今ベース持ってるんや?」

 誰もが疑問に思ったことを最初に口に出したのはサラだった。隣で悠里と晴乃がそういえば……とうなずいている。

「いや……じつは俺たち出られることになったんだ」

 間を開けず「はあ?」と言ったのはやっぱりサラだった。言いたいことを包みかくさず言ってくれるサラには尊敬するばかりだ。

「どういうことよ?」

「おまえらに会ったあのあと、やっぱりどうしても出たくて千賀先生に頼みこんだんだ。一曲だけでもいいから出させてほしいって。そしたらびっくりするくらいすんなりOK出してくれて、だったら最初からもっとお願いしとけばよかったって思ったよ」

 男子学生4人は「ほんとよかったよなあ」と嬉しそうに意気込んでいたが、拍子抜けしたのか、彼女たちは目を細めて「そういうことね……郁さん」とつぶやいていた。

「だからさ、逆恨みしたお礼じゃないけど、よかったら使ってくれよ」

 昨日と同じ自分人物とは思えないくらい爽やかな笑顔で彼はそう言った。晴乃は最初困った顔をしていたが、彼のベースを手に取ると再び闘志がわいてきたのか、目を輝かせて言った。

「ありがたく使わせていただきます!」

 赤いベースを抱えて美しいお辞儀をすると男子学生から拍手が起こった。
 これも使ってくれよとサラはドラムスティックを受け取っていた。昨日ひどい剣幕で怒っていたせいで感情の行き場がないのか、戸惑いながらスティックを手にしている。

「俺のギターも使ってくれよって言いたいけど、おまえのギター、レフティだもんな」

 ギターの男子が申し訳なさそうにギターを持っていた。隣でボーカルの男子もうなずいている。
 悠里はにっこりと笑うと「大丈夫、新しいギターがあるから!」と言った。買ったばかりのギターは弾きにくいはずなのに、その笑顔に不安の影はなかった。

 ギターを持った彼はバンドメンバーと顔を見合わせると、湊人に頭を下げた。

「昨日はあんなこと言うつもりじゃなかったんだ……ただ怪我を見たらびっくりして……ついあんなこと……ごめん」

 湊人は首を横にふった。悪いのはイベントに参加しなかった自分だとも思った。けれど時間は巻き戻せない。

「オレこそ……悪かった」

 湊人が頭を下げると、4人は目を丸くした。謝られるとは思っていなかったのか「いやちがうって!」と取り乱し始めた。悠里と晴乃が笑う。スティックを借りたサラが肩を当ててくる。

「じゃあ今度さ、俺らとメシ食いに行こうぜ!」

 昨日一番顔をゆがめていたギターの彼がそう言った。湊人は驚いて、言葉につまった。喉元が熱くなって、うなずくことしかできない。

 失った時間も、取り戻せるのかもしれない――そう思うと胸が熱くなった。