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わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
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謝恩会(後編)~その手に花束を~

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 小さな声でサラがそう言って湊人を見たものだから心臓が飛び出しそうになった。

 悠里がくるりとふりむいた。春のやわらかい風が頬に吹きつけ、こげ茶色のポニーテールがたなびいた。ホールの並木道にある早咲き桜から無数の花びらが舞い散った。薄桃色の花びらは夜空を瞬いて、星のようにきらめいていた。

 その一瞬、冷たい風が湊人の目じりに残る傷をかすめていった。ビルの上に果てしなく広がる黒い空が一昨日の夜を思い出させる。男の顔、泣いている母、人を殴ったこの手――

 背筋に冷たいものが走り、湊人は身震いをした。

 夜空の重さに身をすくめると、悠里が小さく手招きした。背伸びをしてそっと湊人の耳に口をよせる。

「なんかあったら私が守ってあげるから」

 そう言って悠里は湊人の胸に手をあてた。耳元に吐息のぬくもりが残っている。胸のぬくもりとつながって全身に熱い血がかけ巡る。

 湊人は笑った。悠里も笑った。こっそり手をとった。
 ずっと冷えきっていた心の奥に、あたたかな夜の風が吹いていった。 

(おわり)