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リベンジ

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かったが、堀田には恨みは無い為、出来れば手荒な事はしたく無かった。約一ヶ月後の午後八時過ぎ、駅から程近い雑居ビルから出てくる堀田の姿があった。博は堀田が月極めで借りている立体駐車場の柱の影に佇んでいた。程無くして車に乗り込もうとしている堀田に背後から声をかけた。 「堀田進さんですよね!」 堀田が振り向こうとした瞬間、博はお手製のブラックジャックで後頭部を一撃した、崩れ落ちる堀田を静かに横たえた博は、素早く手足を結束バンドで縛り、猿ぐつわを咬ませ、麻袋で頭部を覆い、堀田自身の車のトランクに押し込んだ。秘密のアジトに戻り、トランクから堀田を抱えると床に固定された椅子に座らせた。 両手は後ろ手にし、手錠で椅子と繋いである。博も目出し帽を被り、アンモニアの刺激臭の入ったビンを持ち堀田の鼻先へ持っていく。徐々に堀田の意識が回復していくのが見てとれた。博はゆっくり背後から落ち着いた声で 「堀田さん、あんたには情報を提供して貰いたいと思いましてね」 「渡邉敏宏はご存知ですよね、あなたが担当者なんですから。今は河田って言うんでしたっけ!?」 「俺は奴の所在が知りたいだけなんですよ。庇うに値しない奴だとお分かりでしょう?」 堀田の前に回り込んだ博は頭を覆っていた麻袋を脱がし、猿ぐつわも外してやった。 「何故、ワシにこんな事を、必ず後悔する事になるぞ!」 堀田は薄くなった頭皮から脂汗をたらし、目出し帽姿の俺を睨み付けていた。「随分と威勢がいいですね、いつまで持ちますかね?」 そう云うと床に固定されているボルトを緩め、椅子ごと後ろに倒し、二枚重ねのタオルを顔に被せてペットボトルの水をゆっくりとタオル全体に掛けていく。C.I.A.が使う初歩的な尋問手段である。 「うぐぅうぐぅげぼぉぐぉぼぉ」 堀田は激しく噎せかえり胸を波打たせた。「話す気になりましたか?」「情報さえ出してくれれば、直ぐにでも解放してもいいんですよ」 そう言うと再びペットボトルの水を顔に浴びせていく。堀田は激しく頭を振り、水を含んだタオルを振りはだこうと、もがき苦しんだ。「話す、話すからもう、勘弁してくれ」 「奴は何処にいる?」 「河田、いや渡邉は三重県のA市の漁港近くにいるらしい。地元のスナックの女と一緒に暮らしてる。ワシが知ってるのはこれだけなんだ」 「一応、信じてやるよ。確認だけはするけどな」と云うと、椅子を元に戻し目隠しをし、死なれては困るので柱に二十リッターのウォーターサーバーをくくりつけ、ペット用の水分補給の要領で口元迄チューブを垂らしてやった。「幾ら叫んでもこの部屋は防音だから諦めるんだな」そう告げると部屋を出て行った。自宅に戻った博は明日から仕事の為、早めに床に着いた。 約五時間後の八時に起床し、ヨーグルトとオレンジジュースを胃に流し込み朝食とした。仕事は自宅から一駅の処にある中堅の薬品の卸しメーカーである。病院へのプローパーをしている。外回りの営業の為、時間の都合はつけやすく、情報収集をするのには適した仕事である。昼休みの間に美樹の勤めている市役所に連絡を入れてみるつもりだ。堀田の言う通りなのかを確かめておく必要がある。翌日の昼休みに市役所の住民課に電話を掛けてみた。「佐伯という者ですが、杉田美樹さんはいらっしゃいますか?」程なくして美樹が電話口に出た。「先輩、どうしたんですか?職場に電話なんて珍しいじゃないですか?」 「実は知り合いがとても困っていてね、保証人になっていたんだが、そいつに逃げられ行方を探してるんだよ。三重県にいること迄は分かったんだけど、それから先は判らなくってね。 美樹なら住記ネットを利用して調べられるんじゃないかと思ってね」 美樹は急に声を潜めて「それって犯罪ですよ、私に犯罪に加担しろって事ですか?」「保証人を引き受けた奴を見棄てられないんだよ、薫の件の時には支えてくれた恩人なんでね」 「少し考えさせて下さいませんか?近い内に必ずお返事しますので」と落ち着いた声で応えた。三日が経ち、日付が変わろうとした頃、携帯鳴った。美樹からだ。「私も捕まりたくないので慎重にしなければいけないので時間が掛かりますけど、いいですか?」「本当に無理を言ってすまないな、逃げた奴の名前は河田敏宏、二十三才なんだけど宜しく頼むよ。決して美樹に迷惑を掛けないと約束するから」数日後、美樹から連絡があり、河田の現住所がA市の丘陵地帯にある市営住宅の四階だと判明した。 今週末に河田のいる三重県A市まで足を運んでみるつもりだ。
作品名:リベンジ 作家名:井口 剛