L K 2 「希望と絶望の使者」
でも完成したイエロービーを見ても、ジェイは喜びもしないで、いきなりその胸を殴って見せたの。姿勢を保つジャイロ機能を確かめたんだって。それに対してイエロービーは全く動じないで、「避けてもよかったのですか?」だなんて。この二人きっと気が合うわ。
問題なのはキュウのグレン。いいえ、グレンに非はないのよ。キュウったら付きまとわれたら面倒だって、逃げ回ってるの。私がグレンに、キュウに科学知識を勉強させるように命令したからね。なのにキュウったら、ジェイに命令してグレンを近付けさせないのよ。だからグレンはタック(猫)の世話ばかりさせられてる。
これで私たちの生活は大きく変わったわ。それぞれが自分の時間を持てるようにもなった。私はそんな時間に何をしたらいいのか分からない。この星に来てからずっと、開拓だけに全身全霊を傾けてきたから。結局また、空いた時間に豚の世話なんかしてるのよ。
最近は天気のいい日が続いて、タックは庭で日向ぼっこばかりしているわ。その庭のリンゴの木には、たくさんの実がなっている。温暖なこの惑星アップルでは、一年中収穫出来るように遺伝子改造をしておいたから。キュウが木に登って、少しずつもいでくるの。
「キュウ、今月は肥料を撒いたの?」
「まだ、撒いてないよ」
「そろそろ撒いとかなくちゃ、枯れちゃうわ」
アップルの土壌には微生物がいないから、土が自然に栄養を作れないの。だから定期的に培養液の追肥が欠かせない。
「雨が少ないし、まだ地中に残ってるはずだから大丈夫だよ」
「そうか、ちゃんと考えてるのね。じゃ、忘れないでよ」
「分かったよ。おい、グレン」
グレンがリンゴの入ったカゴを抱えながら、キュウを見た。
「はいキュウ様、何でしょう」
「お前、リンゴの肥料の濃度を計算出来るか?」
「イオンのモル濃度×イオンの価数ですね」
「そ、そうなの? じゃ、必要な養分ごとに計算して、混合してひと月分を撒いてくれ」
「はい、分かりました。この星には月はありませんが、ひと月というのは、この星の一公転周期の12等分の日数のことでしょうか?」
「普通そうだよ。ここは地球じゃないんだから。大体でいいよ」
「大体の公差が分かりません」
「それが大体でいいって意味だよ」
「エル様。この植物の葉を採ってもよろしいでしょうか?」
ミュウを抱きながらピンキーが訊いた。なんて可愛い声。
「いいけど、何のために?」
「日差しが強いので、ミュウ様の日除けにしようと思います」
「少しくらい平気じゃない?」
「この紫外線量で25分浴びれば、ボディの表面に炎症が出てしまいます」
「・・ええ、そうね。じゃ、傘を作ってくれる?」
ピンキーは、片腕にミュウを抱いたまま、オーガスタの葉をちぎって、顔の上にかざして日陰を作ってくれた。気遣いの細かさは私以上ね。
「子供用に日傘を3Dプリントしておきましょうか?」
ルージュが声をかけてきた。
「そうねルージュ。そうしてくれるとうれしいわ」
「ではすぐに。デザインはどういった物がよろしいでしょうか? 私でしたら、遮光率の高い素材で作りますので、色は地味になってしまいますが、細かな模様を入れれば、ミュウ様に合った可愛い物が作れますし、エル様がカラフルな色をお好みでしたら、内側に遮光シートを貼れば・・・あっ! 内側にホログラムを投影すれば、ミュウ様もお喜びに。ああ、私の指がもう少し長ければもっと器用に出来ますのに・・・」
またお喋りが始まった。
「イエロービー。お前、ライトローダー(外骨格式人型重機)の操縦がうまいじゃないか」
「私は重量物作業に特化されたモデルですので、こういった重機の扱いは基本機能です」
「俺も慣れるのにそう時間は必要なかったが、お前がいると、正確に早い作業が進められるぜ」
「ありがとうございます。ジェイ様」
「礼なんか要らねえよ。俺には感情がないから。無用な事だ」
「でも私は、人に仕えるように造られていますので、あなたの為に奉仕します」
「ロボットがアンドロイドに仕えるって意味が、どういう事か分からねえよ」
「正確には、私もアンドロイドです」
「そのようだな。もっと低レベルなモンだと思ってたぜ」
「それは褒め言葉ですね。ありがとうございます」
「だから、要らねえって」
テラフォーミングを進める為に、酸素エジェクターの増産を開始したから、ジェイとイエロービーはインフィニチウムの採掘量を増やしている。
ケイは、ブルーノをアシスタントに従えても、ラボに篭りっきり。結局休息を取らないのね。私は手の空いた時間には、ケイを手伝うことが出来るようになった。ラボに行くといつもブルーノがホロチャンバー内で実験している。私はモニター越しに指示を出すケイにこっそり近寄って、その頬にキスをした。ケイは驚かずに、
「キスを返すべきですが、今はトラブルの際中ですので」
「あ、ごめんなさい。どうしたの?」
「なぜかプログラムにノイズが走って、フリーズしたのです」
その瞬間、
*ウォンウォンウォン・ウォンウォンウォン・・・
「あ! これは!?」
その音を聞いて、私は身が引き締まる思いがした。久々に聞いた呼び出し音。太陽系からのメッセージだわ。
作品名:L K 2 「希望と絶望の使者」 作家名:亨利(ヘンリー)



