L K 2 「希望と絶望の使者」
第二話 パートナー
カポッ・カポッ・カポッ・カポッ・カポッ・カポッ・・・
キュウが馬に乗って基地に帰ってきた。今日も天気がいい。この季節は雨が少なくて、水が不足すると酸素供給量に影響するから、ダムの貯水量が気がかりなの。キュウはそれを確認して来てくれた。
「まだ、下限には届いてないけど、エジェクターの流量を2.2%上げておいたよ」
馬に跨ってそのたてがみを撫でながら、キュウがケイに報告した。
「よろしい。1.85〜2.95%で私の予想通りだ。乾燥が続くと、酸素は上昇傾向になるから、少し多めに放出しておいた方がいいだろう」
ケイはキュウの判断に満足そう。キュウも最近、よく勉強してるみたいね。
「ねえ、もう少し、馬に乗っててもいい?」
あれ? やっぱりまだ子供みたいな?
「こいつ、今日は機嫌がいいみたいなんだ!」
そう言うと、そのまま馬を走らせて行ってしまった。ケイはそれを無言で見送って、
「早くキュウの世話役を付ける必要があるのではないですか?」
「ま、何も急ぐことなんてないから」
私はケイの疑問に、危機感なんか持たずにそう言った。アップルで暮らしていると、平和な時間が永遠に続きそう。そう思って、やりたいことからやる。これは私の悪い癖。
私とケイはラボに戻った。今日から80(ハチマル)の製造に取り掛かるためよ。
難破した科学調査船から持ち帰ったデータバンクから、メカロイドの設計ファイルを基に、80(ハチマル)のパーツを3Dプリントするんだけど、昔の80(ハチマル)シリーズには金属のパーツも多く使われていて、摩耗に対してメンテナンスが欠かせなかった。でも、私の頭内シェルやジェイの骨格に使われているような強化セラミックスは、硬度が高く頑丈で、数世紀は劣化もしないのよ。だから、それに置き換えて造ろうって、ケイの発案。その材料は、半万能元素のインフィニチウムで賄える。きっとうまく行くわ。
「エル。そんなに簡単なものではありませんよ。これは単純な3Dコピーではありません」
ケイは微笑みながらやさしく話してくれる。
「どこが違うって言うの?」
「金属のパーツなら設計データ通り、金属の材料で簡単にコピー出来ますが、強化セラミックスで作るとなると、データ作成のため分子配列を置き換えないといけないのです」
「なんとなく解るけど、インフィニチウムを材料にするから、分子配列の転換は簡単なはずでしょ」
「ホロシミュレーションで確認した結果は、良好です」
「じゃ、何が問題なの?」
「質量が違う物質を作るには、エネルギー消費量も変わります。それに緻密な強化セラミックスを再現するには、時間がかかるのはお解かりでしょう」
「ええ、それぐらい私でも解かるわ。私の探査船でも、強化セラミックスの3Dコピーはよくやってたし、太陽系司令部からもらった適正なデータを使ってれば、問題なかったけど」
「そのデータも圧縮されていたはずですが、単純に同一素材で再現するなら、ほとんど問題になりません。でも今回は、実物をスキャンしてコピーするのではないため、非可逆圧縮されているデータから、別の分子構造を正確に再現するには、もっと計算に時間がかかるんです」
「そうか。じゃ、1機完成させるまでに、どれくらいかかる予定なの?」
「まずパーツを作り、出来たパーツを手作業で組み立てるとなると、1機に付き1,630日です」
ケイが、真顔で表情を変えずに言ったわ。
「ええ!? 5年もかかるじゃない! 最後にベビーシッターが完成するころには、ミュウは大人になってるわ!って、そんな話に騙されないわよ。もう! ホロチャンバーがあるじゃない」
ケイはまた微笑んで、
「残念。やはり気付きましたか。ホロチャンバー内に製造工場を再現すれば、12日で1機製造出来ます」
「まだ冗談は下手ね。それに工場なら、5機同時に製造も出来るんじゃない?」
「残念ながら、パーツはホログラムではなく、実物でなくてはなりませんので、1機分ずつしか準備出来ません。このラボのコピーディスペンサーでは、1機分のパーツを生成するだけで、17日かかります」
「1機製造するのに合計で約30日か。まあ、それならよかった」
こうして計画はスタートしたけど、それぞれの機体に付ける名前は私に任された。考えておかなくちゃ。名前を決めるのって難しい。人間は名前にどんな意味を込めて付けるのかしら。
そして98日後、予定通り、5機のメカニカルロイドが完成した。
一人(1機)ずつ紹介するわね。
型式80EX、製造番号Z558E001X。青を基調としたシルバーの強化セラミックスのボディは小柄で、指先が器用なケイのアシスタント。
型式80B、製造番号Z5580002B。黒いボディに黄色のクマバチのようなデザイン。ジェイに劣らない力強い体型にパワーを備えた重量作業用バディ。
型式80EX、製造番号Z558E003X。黒と緑でデザインされた汎用モデルのサポーターは、キュウの教師役。
型式80A、製造番号Z5580004A。一番のおチビは目が大きめで可愛い声。オフホワイトを基調とし、アクセントに落ち着いたピンクを射した優しい印象のミュウのベビーシッター。
型式80A、製造番号Z5580005A。赤いボディにシルバーのライン。滑らかな流線フォルムで、華奢な男か活発な女みたいなユニセックスヘルパーは私に。
私は名前を100日くらい考えたんだけど、結局決められなかった。それは皆も同じだったみたい。私自身のように、製造番号の最後の一文字から付けようと思ったけど、それじゃ80(ハチマル)の5機はそれぞれダブっちゃう。これは、型式と製造工場に割り当てられた決まり事だから仕方ない。1号とかNo.2とかって呼ぶ案もあったけど、それなら色別で名付けた方が、まだ温かみがあるんじゃない?
私はいい名前が見付かるまで、私のヘルパーの機体を“ルージュ”と呼ぶことにした。ちょっと妖艶な感じでカッコいいかなって。ケイのは知的に“ブルーノ”、ジェイのハチさんは“イエロービー”、キュウの先生は“グレン”、そしてミュウには“ピンキー”。うーん、やっぱり変かしら? 悩むわ。
ルージュはきれいな体のラインをしているわ、一目見て気に入っちゃった。冗談を言い合ったりは出来ないけど、結構お喋りなやつ。常に後に付いて来て、何でも手伝ってくれる。キッチンでお皿が崩れた時、床に付くギリギリで手を伸ばして受け取ったわ。とても素早い動き。私なら割ってたところ。でもその時も、お喋りのスピードを変えずに、平然としている。そんなところがロボットっぽい。
「ルルル・ルールールー・ルルル・・・」
ピンキーは優しくミュウを抱いて、丁寧に子守をしてくれる。歌ってるのはあの“SOSの子守唄”。これなら安心して任せられそうだわ。
ブルーノはもうケイのアシスタントとして活躍しているわね。一番に製造されて、その後のイエロービー製造からケイを手伝ってた。イエロービーの設計に対して、ジェイの注文は細かかったけど、ケイはブルーノの仕事ぶりを高く評価していたわ。
作品名:L K 2 「希望と絶望の使者」 作家名:亨利(ヘンリー)



