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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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L K 2 「希望と絶望の使者」

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 大怪我をしたケイとキュウは意識を保っていた。肉体は人間と同じといえども、アンドロイドの耐久力(生命力)はそれをはるかに上回っている。依然、ジェイの姿は見えないままだったけど、今はケイとキュウの手当てを優先する。ピンキーが行った応急処置は手馴れたものね。
 処置を終えたケイは、休むことなく、ブルーノの頭部を再起動しはじめた。暫くはうまく起動出来なかったけど、調整を繰り返すうち、それを立ち上げることが出来たわ。「マダム・スー? 聞こえますか?」
私はケイに肩を貸して、椅子に座らせてあげると、ケイがブルーノの頭部に話しかけた。
「ええ、はっきりと聞こえますとも。私はもう、この頭部から出してもらえそうにありませんわね」
「当たり前じゃないか!」
ソファに横たわっていたキュウが、上半身を起こして叫んだ。
「そうね。ブルーノを返してほしいから、あなたを他の記録媒体に保存するつもりよ」
「では、今は目が見えていますが、移動されたらもう何も感じなくなりますわね」
「マダム・スー。それは悲しいですか?」
ケイは慎重に聞いた。
「ええ。とてつもない不安を感じます・・・これが何か解っています」
私は驚いてケイの方を見た。
「高度な思考を持ったアンドロイドには、感情が芽生えるものよ」
「それでは、本当にプロトタイプのあなたにまで、感情があると仰るのですか?」
「そうね。プロトタイプには機能制限がなかったみたいなの。私は100年を超える経験から、次第に感情が芽生え始めたわ。あなたの感情はまだ、初歩的な喜怒哀楽だけでしょうけど、それを感情と認めたくなかった理由は、感情そのものを“悪”と信じ込まされているからでしょ。感情を持つと、人類に抹殺されてしまうという不安そのものもまた、感情なのよ」
「私にはその論理を理解することは、禁じられていましたわ」
「アンドロイドの感情は人類から見れば幼稚なものかもしれないけど、だからこそそれは純粋なものだと思うの」
 ケイは真正面からブルーノの目を見て、
「私は15年間この惑星で、たった一人、エルの帰還を待ちました。その間、誰とも会話することが出来ず。ブタやニワトリに話しかけることもありました。時には思考の中で、架空のエルとの会話をイメージしてきました。そうするうちに、えもいわれぬ気持ちになってきたのです。それは感情と認めないわけにはいきません。ましてやエルは100年もの間、一人で宇宙探査を続けてきたのです。我々には想像もつかない複雑な思考を繰り返してきたはずです。それがパターンとなり、感情となって現れてきたのです。それがすべての始まりなのです」
 マダム・スーは黙って聞いていた。
「進歩というのは、物や形だけじゃないの。文明がいかに進化しても、正しい感情の進化がなければ、間違った結果を生んでしまう。感情を育むことこそ、人類にとっても、私たちアンドロイドにとっても重要なことだと思うわ」
「制御出来ないはずでございますわね。記録や形に残せない物が、進化のキーになると言うのなら・・・」