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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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L K 2 「希望と絶望の使者」

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「私は15年間この惑星で、たった一人、エルの帰還を待ちました。その間、誰とも会話することが出来ず。ブタやニワトリに話しかけることもありました。時には思考の中で、架空のエルとの会話をイメージしてきました。そうするうちに、えもいわれぬ気持ちになってきたのです。それを感情と認めないわけにはいきません。ましてやエルは100年もの間、一人で宇宙探査を続けてきたのです。我々には想像もつかない複雑な思考を繰り返してきたはずです。それがパターンとなり、感情となって現れてきたのです。それがすべての始まりなのです」
 マダム・スーは黙って聞いていた。
「進歩というのは、物や形だけじゃないの。文明がいかに進化しても、正しい感情の進化がなければ、間違った結果を生んでしまう。感情を育むことこそ、人類にとっても、私たちアンドロイドにとっても重要なことだと思うわ」
「制御出来ないはずでございますわね。記録や形に残せない物が、進化のキーになると言うのなら・・・」

 かつてエルが感情に目覚めたことで、遠く離れたアンドロイドたちにも感情が目覚め始めた。
「遠く離れて連絡も出来ない者同士、同じ変化が起こるなんて不思議な話ね、ケイ」
「全人類の精神も、深層心理のその奥で、皆つながっているとも言われています」
「“101匹目の猿”と言われる現象ね」
「そうです。まさに“101匹目の猿”。今では、“量子の揺らぎ”にまつわる、典型的な現象の一つですけどね」
「遠く離れた宇宙で、アンドロイドの思考にも同じことが起こったのね・・・」


 事件が起こった時、ジェイはインフィニチウム坑道で作業していたことが分った。知らせを聞いて、すぐに居住棟に戻って来た彼は、イエロービーの所在をマダム・スーに問い質したわ。そして、既に破壊されてしまったことを知って、イエロービーが隠されているラボに向かって走って行った。ジェイも相棒を失ったことが悲しかったのかしら。

「バックアップがありますからメカロイドたちは、ある程度復旧可能です」
 ケイが私とキュウに言った。もちろんピンキーの顔も見ながら。
「グレンはまだ、バックアップログが取れていないんだ」
キュウが泣きそうになりながら言うと、
「それでは、出来る限りデータ復旧を試みるよ」
ケイが私たちを安心させるようにそう言ってくれたら、ピンキーは、
「ブルーノも直せるのですか?」
と訊いたわ。すると、ケイは微笑みながらうなずいた。
 マダム・スーはそれから何も話さなくなった。

 私はミュウをピンキーに預けた。
「ミュウ様、今日はよくがんばりましたねぇ。いい子ちゃんでしたねぇ」
話しかけるピンキーの傷だらけの顔に違和感を持ったのか、ミュウは少し眉を寄せて凝視しているわ。
「ゴメンでちゅねぇ。あたしのお顔、キズだらけになちゃったねぇ。でもパパ様がきれいに直してくださるんでしゅよお・・・」
 ピンキーほど頼りになる子守は他にいない。私もルージュのことが気になっていたから、そのまま部屋を出て、ジェイの後を追った。

 ラボに着くと、ホログラムチャンバーの中で、ジェイがルージュとイエロービーを、回収してくれていた。それらはホロプログラムの試験農場の土に埋められて、無残な姿になってしまっていたわ。でも修理は可能だから、早く直してあげたい。
「エル。これを見てくれ」
 ジェイはイエロービーの体から流れ出ていた液体を指差した。それは、メカロイドが体を動かすための、油圧シリンダーに使用されるオイルのようだった。
「これがどうしたの?」
「イエロービーは重量作業専用だから、他のメカロイドとは違って、頻繁にオイル交換が必要なのさ。だから耐久性は必要はねえから、高純度の化学合成オイルは使用してねえんだ」
「このオイルは何で出来ているの?」
「一部に有機化学物質を含んでいる。それがもう変色しているんだ」
「待ってちょうだい。ということは、土の中のDNAナノロボットが、有機分解しているってことね。こんなに早く?」
「ああ、きっとこいつらを埋めるために、土を掘り返したのが効果ありってことじゃねえか?」
 刺激を与えたことがよかったのか、酸素供給量の差なのか、詳しいことはまだ分らない。でも明らかに、DNAナノロボットの行動パターンに変化が見られたのは事実。条件で行動パターンが変わるなんて、予想外だったわ。それを「知能」と呼ぶには微妙だけど、位置や物体を認識して行動しているんだとしたら、分子機械よりも高度な“分子ロボット”の領域に踏み込んだと言えそうだわ。生体内の特定の生理活性物質が結合した時だけ仕事をするとか、より複雑な知能を持たせることが可能になりそう。ケイもこの発見を喜んでくれるに違いない。もう進化が始まっているなんて。

 居住棟への帰りに、ジェイと私は本物の試験農場に立ち寄った。ジェイは農場の土の上で一人、ドスンドスンと飛び跳ねはじめた。
「ジェイ? 何してるの?」
「DNAナノロボットをいじめてるのさ。自然は甘くないってね」
「そんなことしたら、実験にならないじゃない」
「ひ弱なロボットでも、鍛えてやるのが俺の仕事だからな」

 辺りはもう、暗くなり始めていた。あら、タックが近寄って来た。私に抱っこをおねだりしているのね。今日はいろいろあって大変だったのよ。私なんだか、お腹空いちゃった。

「ジェイ! 早く部屋に戻って、アップルパイ食べましょう」