L K 2 「希望と絶望の使者」
ケイは自信を持って、ブルーノに指示しているわ。彼は私が最初に伝えた「もっと人の住みやすい星にしたい」って望みを忠実に実行してくれているだけなんだけど、私にとっては、たった一人でこの星の開拓を始めた時から比べたら、ものすごい変化の瞬間なのよ。今までは、持ち込んだ家畜や、人工的に管理した植物を相手にしてきただけだったけど、今日からは、私たちの手を離れて、自然な生命活動が繰り返されていくことになるんだから。
「まさに、大地に生命を吹き込む瞬間ね」
「その通りです。これからすべてが始まるのです」
「あーーーぁーー」
ミュウが可愛い声を上げた。ブルーノは作業の手を止め、また首を傾げてミュウを見た。ピンキーがミュウを腕に抱きながら顔を寄せ、大きな目を細めて微笑みかける姿を私たちは見守っているわ。皆はどう思っていたか分からないけど、きっとこの子が豊かに育つことが出来る世界を、想像してくれていたに違いない。
ブルーノがストレージケースから取り出した器具を地面に挿した。中に入ったDNAナノロボットを地中に注入していくためだ。
「エル様。最初はあなたがトリガーを引くべきですわ」
そんなことをルージュが申し出てくれた。この子、気が利くわね。
「そうですね。エル、この仕事はあなたにこそふさわしい」
ケイも同意してくれたわ。
そして私は全員に見守られながら、その輪の中心に立ち、注入器のトリガーに指をかけた。
「アップルがすべての生命の揺り篭となりますように」
私は目を瞑り、まるでお祈りでも唱えるみたいに言ってから、ゆっくりと指を引いて、大地に生命を注入していったわ。
「これだけ?」
キュウが訊いた。
「はい、そうです」
ブルーノが答えた。
「なんだか、手応えも何もないわね」
私が地面から注入器を引き抜くと、タックがその部分の匂いを嗅いでる。
「安定して注入出来る器具ですから」
ケイも当たり前のように私に言ったけど、やっぱりキュウの言う通り、なんだか物足りない。ジェイは足踏みをして、
「これで死んでしまわないだろうな」
「その程度では、多少DNAの鎖が分裂してしまうかもしれませんが、また再生するでしょう」
ブルーノが説明した。それをケイが聞いて、
「ブルーノはよく研究を理解しているな。私の期待以上だ」
ジェイがまた地面を蹴ると、タックが嫌がって、その足に向かって「シャー」って怒っちゃった。
「そう言や、イエロービーが機能不全を起こしているようなんだが、検査してやってくれないか」
「・・・機能不全?」
「ああ、どうやら俺を人間と思うことがあるようなんだ」
「イエロービー、あなたもなの? 私もブルーノもそうなのよ。だったらこれで正常なんじゃないかしら。ケイ様はどう思われます?」
ルージュは早口で訊いた。
「じゃ、グレン、ピンキー。君達はどうなんだ?」
「私はキュウ様を人間だと思っています。セカンドロイドは、アンドロイドである要素はほとんどありません」
「私もミュウ様を人間の赤ちゃんだと思っています。“人工生命体”というより“人間”です」
「この認識の異常は、一時的にプログラムを混乱させる恐れがあります」
ブルーノが冷静な口調で言うと、ケイは腕を組んで、左手で顎を引いて考えた。それでルージュに対して、
「自己診断は行ったのか?」
「私はキャッシュをクリアして、エラーシューティングをかけてみたのですが、エル様を人間と認識した場合だけ、エラーが上がるようでした」
「じゃ、ルージュ。君はセカンドロイドのことをどう思うんだ?」
「それはキュウ様やミュウ様は・・・人間???アンドロイド????? あれ!? アンドロイドと認識した方がエラーになってしまいます」
「なるほど。じゃ、やっぱり共通の問題のようだぜ、ケイ。このまま使用を続けても問題はないのか?」
ジェイは危機管理の責任者だから、皆の安全が第一。その判断によっては、80(ハチマル)達を機能停止にするだろう。
「そうだな。一度、徹底的に調べた方がいいかも知れない」
作品名:L K 2 「希望と絶望の使者」 作家名:亨利(ヘンリー)



