悠久に舞う 探偵奇談17
これが瑞の本当の姿なのだ。飾らなくて、子ども扱いされて照れくさくて怒っている瑞。家族にしか見せない顔。紫暮の気持ちは、きっと瑞にちゃんと伝わっている。それがよくわかる。
「行っちゃったね…」
遠ざかる電車が見えなくなってから、郁は呟いた。早く春になって、暖かくなって、そしてまた紫暮に再会するのが楽しみだ。
「寂しいだろ」
「セーセーします」
「嘘つけ、みぃちゃん」
「ねーホントやめて…!!」
笑う伊吹と頭を抱える瑞の背中を見つめながら、郁は春を待ち遠しく思う。花が咲いて新しい季節が来たら、この鬱屈とした気持ちにも何か変化がありはしないだろうかと。
(…まだ、そばにいさせて下さい)
自分は醜くて、ものすごく邪なことを考えて、彼を独占したいなんていう欲深い人間です。
だけど、そばにいたいです。
どうか、こんなわたしから、あのひとを奪わないで下さい。取り上げないで下さい。
そんな郁の祈りも、こっそり零れた涙も、瑞は知らない。
知らないけれど。
瑞もまた同じような祈りを抱えていることに、郁も気づけずにいるのだった。
END
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作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白