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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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悠久に舞う 探偵奇談17

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春はすぐそこだというのに、まだまだ雪がちらつく二月の終わり。一之瀬郁(いちのせいく)は部屋で膝を抱えながら、流れてくる音楽に耳を澄ませていた。夜の静かな暗闇の中、心地よい音に意識を傾けようとするのだが、どうしても思考はずれていく。

(嬉しかったなあ…一緒に聴けて)

あの夜。好きだった歌が、世界一大切な歌になった。瑞(みず)と手を繋いで聴いた歌。繋いだ指先から流れてきたその温度が、心地よくて、愛おしくて、泣きそうなくらいに優しかった。どうして手を、と何度も考えたけれど、あの空間の中で言葉にならない感情が沸き上がって、隣の誰かの存在を確かめたかっただけかもしれない。好意とか恋愛感情とかいう意味を見出すより、そう考えた方がよほど自然だ。それくらいに、あの空間は特別な場所だったから。

(…でも、どうしたらいいんだろう)

このままずっと友だちでいても。
告白して関係が壊れても。
どちらにしても苦しいことに変わりはないのなら。

(友だちとしてもそばにいることが出来なくなったら、どうしたらいいんだろう…)

あの夜もらったピンも。一緒に聴いた歌も。過ごしてきた日々も。
瑞のそばで笑えなくなる日が来たら、もう宝物じゃなくなるのだろうか。

(そんなの嫌だ)

ずっと大好きでいたい。そばにいたい。それは難しいのだろうか。所詮いつか終わってしまう関係なのだろうか。

そんなことを考えると、もう眠れないのだ。苦しくてたまらない。それは、本当の本当に彼のことが好きだからだ。今までこんな恋をしたことはなかった。大好きなのに苦しくて、郁は膝に顔を埋めたまま息を吐く。優しい音が、大好きな詩をなぞって夜の中に溶けていった。

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