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コート・イン・ジ・アクト4 あした天気にしておくれ

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「なんつーか」佐久間さんがテレビを見ながら疲れた顔をして言った。「しょうもない話よねえ」
 
班長も言う。「まあな。聞いててバカらしくなってくるな」
 
「なんかこの夫婦って、顔だけ見ると普通でしょう。普通と言うか、地味と言うか、平凡と言うか、凡庸と言うか、平均と言うか、並と言うか、特徴らしい特徴がちょっと見当たらないと言うか」
 
「別にそこまで言わなくていいんじゃないかという気もするな」
 
「でもきっと、似たもの夫婦なのかなあ。あのマンションに踏み込んだ時も感じたけれど、フツーのようで普通じゃない、何かふつうと欠けてるような……」
 
「大体言いたいことはわかる。犯罪者ってな、大抵の場合そんなもんだ。どこかがちょっと捻じれてる」
 
「そうよね。この事件の場合、表面的にはむしろマジメな、几帳面で物事を一度始めたらトコトンまでやらなきゃ気が済まないような神経質さがあるようでいて、そのくせひとつ予定が狂うと全部投げ出しちゃうような無責任さというのかな、粗雑さが感じられる気がするわ」
 
「ふうん」と班長。「どんなふうに」
 
「なんと言っても、あの子供部屋よ。ソーラーパネルで窓を塞いでおきながら、それをカーテンで隠してる。あれ、誰に隠すって言うのよ。自分達以外ないでしょう。やってることの現実を自分で見まいとしてるっていう他に考えようがない」
 
「続けて」
 
「あれで自分らは理想的な親のつもりでいるんじゃないの。檻さえ無けりゃ、パッと見にはいい子供部屋だものねえ。でもあんなの現実としておかしい。本当の子供の部屋なんていうのは、散らかってるもんなのよ。眼を離すと道で変な虫捕まえて、ビンの中で飼ってるのよ。ミッチャンミチミチなんて歌って、オゲレツアニメなんか見て、『ピーマンは嫌い』って言っていなけりゃ子供じゃないのよ」
 
「それじゃ今のおれみたいだな」
 
「その辺の神社へ行くと、境内に絵馬が掛かっているでしょう」
 
「ん? なんだ?」
 
「絵馬よエマ。見るとよく書いてあるのよ。《健やかに育ちますように》とか。赤ちゃんの親が掛けたもんよね。でも三年くらいすると、板に書くことが違ってくるの。《ナントカ大学付属幼稚園合格》と」
 
「ははは」
 
「本当に普通の人間なんているわけない。この事件も普通の親の愛情がどこまでも捻じれていった末に起こったものでしょう。考えたら怖いよね。人間どんなきっかけで狂っていくかわからないって……」
 
横で話を聞きながら、おれは最近どっかで似たようなこと言った人がいたなと思った。そうだ。あのおばちゃんだ。金をもらって外国に移住するとかいう話だ。いいな。おれもお金もらって、ハワイかなんか住みたいな。
 
「木村班はいるか!」
 
隊長が大声上げて入ってきた。珍しい。どうも姿が見えないから、またあんまり遊んでいると勘が鈍ってしまうと言ってバーチャル・シミュレーションでもやって遊んでいるか、隊長室でこっそり酒でも飲んでるのかと思ってたのが、いつになくマジメなようすだった。
 
「みんな聞いてくれ」隊長は言った。「このあいだの虐待の件だ。検察が起訴を見送った。森田夫婦は釈放される」