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コート・イン・ジ・アクト4 あした天気にしておくれ

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うわー、と思った。ヤだね、サツカン(警官)は疑い深くて。人を見たら泥棒と思うだなんてあまり褒められた話じゃないね。ましてや若い女がそれでどうすんのかね。ええ? 『男女差別』とか、言う人間は言うだろけどさ。

けれども普通、女ってのはかわいくいたいと思うもんなんじゃないのかね。それがこんなに疑い深くなっちゃって、おれが親なら嘆くだろうね。いや、こいつの親もマッポ(警官)か、確か。どうなんだろ。『いい娘に育ってくれた』と思ったりなんかするのかな。

「だとして、それがなんなんだよ。まさか虐待してたのは、親じゃあなくてあのおばちゃんとか言うわけか?」

「そういうわけじゃないけどお」

「あのおばちゃんはトリックだとかなんだとか、そういうことを編み出しそうな人間には見えないぜ」

「そうなんだけどね」

「調べるなら親の方、調べる方がいいんじゃねえのか? 実は案外、どっかで触れまわってたんじゃねえのか。『ウチはこういう教育方針です』とか言ってさ」

「それも有り得ない話じゃないけど」

零子は乾燥機の方に眼を向けて、何か考える顔をしていた。それから言った。

「突入のときさ、あたしツカサと反対の方を見たでしょう。洗面所とか、キッチンとか」

「なんの話だよ」

「別の話。あのときやっぱり、ちょっとひとつ気になったのよ。洗濯機が変な音立ててたの。『カチッ、カチッ』っていう感じの」

「ん?」

と言うと、奈緒が、

「冷却の音じゃないんですか。乾燥機が熱を冷ましているときに何かカチカチ音立てる」

「だとあたしも思ったけど、ちょっと気になったから、後で中を覗いて見たの。そしたら、毛布が入っていた」

「毛布?」

「うん。動物の絵があって、子供用だとわかるやつ。端んとこが見えたから、引っぱってみたら、《洗濯可》ってなっててさ。たぶん最近のハイテク毛布よ。ものすごくあったかそうだったもん」

「別に今どき珍しくもないだろう」

「まあ、安く買えるけどさ。動物の絵だよ」

「何が言いたいんだよ」

「だから、絶対、あの子のための毛布なのよ。サイズから言ったって――それを朝に剥ぎ取って、乾燥付き洗濯機に放り込んで、親は出てったことになるよね。その代わりにペラペラのフィルム――結果的に子供が死ぬ〈はず〉になった」

「うん」と言った。「だろうな」

「なんつーか、まるっきり愛情のない親のやることとも思えないのよ。これはつまり、あの子のために毛布を洗濯してやったため起きた事件てことにもなるわけでしょう」

「おい」

「洗濯なんかやんないでほっとくこともできるのに、わざわざ〈檻〉の一部を解いてさ。あれ、開けるのはともかくとして、元通り閉じ直すの大変だよ。チマチマしたことよくもやると思うよね」

「ちょっと待て」

待たなかった。「あの子も後で逃げるなら、どうしてそのとき外に出ようとしなかったっていう気もするよね。絶好のチャンスじゃん」

「ふざけんな!」

おれは言った。洗濯室の中に声が反響した。

「言っとくけどな、あそこの親はエアガンで子供を撃つようなこともしていたんだぞ!」

「それとは別の話として」

「『別の話』だと!」

おれの声に、洗濯機どもが、ビックリして動きを止めた。わけがないけど、一台止まったやつがあった。おれが終わるのを待ってたやつだ。だがそんなのはどうでもいい。

「エアガン使った訓練は自分だってしてるだろうが! 当たったらどんだけ痛いか知らねえわけじゃねえだろう! それをあんな至近距離だぞ! もし眼に当たっていたらどうする! それを、『まるきり愛情のない親とも思えない』だと!」

「いや、だから、ツカサ。それとは別に」

「『別に』じゃねえ!」

おれは言った。なんだなんだ、と外で声がするのが聞こえた。誰だ、大声出してるのは。近所に迷惑と思わないのか。この雨の日にうっとうしい。

「逆らったらどうなるかあの子にわからねえわけがねえ! エアガンでバンバン撃たれるんだよ。フルオートで一度に百発連射できる電動式の強力なやつでな!」

一見すれば理想的な子供部屋。だがよく見れば、ふかふかのカーペットにはそこらじゅう、プラスチックのBB弾がうずまっていた。ベッドの中にも四隅に丸い無数の玉が、魚が卵を産みつけたような具合になっていた。

二段ベッドの上の段には高性能エアガンと袋一杯の6ミリ球と、通販番組でよく売っている『お部屋の便利なお掃除道具の床に落ちてる玉コロをかき集めるのにこれはまさしくピッタリですネ』みたいなやつが、そのためだけに買ったように置かれていた。

あのおばちゃんの宅で見た子供の体には、それで撃たれたとわかる痕が無数に記されてもいたのだ。

「ツカサの言いたいことはわかるよ。〈檻〉の口を閉じるのに手間がかかるからと言って、その間にあの子が破って出るなんてことは有り得ない。捕まってひどい暴力を受けるのをあの子はよく知っていた、と」

「わかっているならどうしてああいうことを言う」

「あの子は親が怖いから、それまで出るに出られなかっただけだと思うの。今日はあんなに細い力のない腕で、穴を広げて出たんだもの。やろうと思えばたぶんいつでもできたはず。最低限の世話がされていたのも確か。それがどうして、今日はああいうことになったのか」

「ふうむ」と言った。「あ、そうだ。大事なことを思い出した」

「え?」「何?」

と奈緒と零子。

「おれはここに洗濯をしに来たんだった」

ジャージ・ガールズがガックリ顔を見せ合いやがった。

「何よそれ」

「『何』ってなんだ」

まさか、ややっこしいことで、おれに期待してたのか? そんなもん、応えられるわけないだろうが。機械から誰のか知らんが他人の洗濯物を引っ張り出して備え付けのカゴに入れ、自分のを入れてスイッチを押した。洗濯機がガタゴト音を立て始める。

しばらくして奈緒が言った。「あの、ひとついいですか」

「なんだい」

「ひょっとして、今日のあの子、能力者なんじゃないでしょうか」

「え?」

「あの子は殺人予知能力者。自分で自分の死を予知したんです。『このままでは死ぬ』というのがあの子にはわかった。だから力を振り絞って縄の檻を抜け出した。それで、あたしが感じたのとは違う時間の流れになった――」