コート・イン・ジ・アクト3 少数報告
殺人予知者にとってみても、ただでさえ生きていくのが大変なのに、市井にいると苦労だらけだ。偏見を受けることも多いし、あまり普通の仕事はできない。保養のための休みを取るのも難しいし、休んでいたら経済的にも苦しくなる。
警官になればその点いろいろ便宜が図ってもらえるわけで、特捜官として彼らを採用するのには能力者救済の意味もあった。
殺人予知者は特捜であれ民間であれ、どこで何をしていても、予知をしたならただちに専用携帯電話で報告することになっている。そして常に数人は、警察署などで勤務に就いていてもらわなければならない。
いつ何時(なんどき)、サッキュウ(殺人課急襲隊)のバックアップに出てもらうことになるかわからないのだ。そのためにもひとりでも多くが求められており、今は充分な数と言えない。
いつかの伊勢佐木通り魔のときなんかも、最初だけは特捜官がゲンジョウに出張っておれ達を支えていたが、それができるのもできる態勢が常に整えられてるからだ。民間の能力者に本物のヤバイ通り魔事件のバックアップなどさせられないし、特捜でもあまり弱っちくちゃいけない。頼りになる〈本当の警官〉としての殺人予知特捜官は、能力者百人につきひとりかふたりであるという――つまり日本にいま十数人しかいない。
まあともかく、どっかのバカ映画のように広い国土に能力者がたった三人くらいしかおらず、おまけに後から生まれることがまったくないと言うのでは、システムなどそもそも成り立ちはしないのだ。もしやっても何日とも耐えられず全員死んでおしまいになるに決まってる。
〈致命的欠陥〉てのはそういうのを言うんであって、努力でなんとかできないこともないうちは〈欠陥〉と言わず〈問題〉とか〈難点〉とか呼ぶんだよな、日本語では。
さて前田奈緒巡査ってのが、本当に隊長の言う通りの期待すべき人材なのか。彼女は挨拶を済ませるとすぐ、部屋を出て行ってしまった。オオヤ(所轄)の区画に行くのだろう。
殺人課は県警本部生活安全部に属しており、神奈川ではこの厚木署に間借りする形で根城を構えている。厚木署の所轄(しょかつ)署員はおれ達を『下宿人』と呼び、おれ達はその彼らを『大家』と呼ぶ。横の交流はないに等しく、互いの顔もロクに知らない。
なのにあの子、所轄で研修か、と思った。あまり聞かない話だが、それだけほんとに期待されてるってことなのかしらん。
それはさておき、隊長は、前田巡査の他にもうひとり女の客を連れていた。〈女〉と言っても奈緒ちゃんの倍は年を食っている。しかしどっかで見たような……。
「ええと、もうひとり紹介する。テレビなどでみんな見たことあると思うが、こちら、相原美咲博士だ」
「相原です」と彼女は言う。
思い出した。有名な学者だ。
忘れていたのはどうやらおれひとりくらいらしい。気づいてみると零子などはおれの隣で、驚きの眼で彼女を見ていたのがわかった。
作品名:コート・イン・ジ・アクト3 少数報告 作家名:島田信之