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コート・イン・ジ・アクト3 少数報告

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06


 
SF作家フィリップ・K・ディックの短編『マイノリティ・リポート』はもともと問題のある作品だった。フグの毒に当たって死んだ往年の大スターはこの小説を読んだ時その内容にまるっきりついてくことができなくて、この作家はちょっと頭がおかしいか、それとも気が狂っているに違いないと思ったという。
 
それも無理のない話だった。その小説は、ディックの書くものはみんなそうだが、普通の人が迂闊に読むとバカになるからやめた方がいいものだった。
 
だからそこでやめときゃいいのに、マジメになって「こんなシステムは許せないから廃止する話に作り変えよう」と言って出来たのが映画版だ。システムよりもストーリーに欠陥のある映画になった。
 
公開当時も大抵の人はバカ映画と思って見たシロモノだが、一部に話を本気に取って血圧上げた人間がいたのが怖い。
 
「ああ、なんてことなんだあ。未来はこうなってしまうのか! そうだこうなるに違いない。こうなるに違いないんだあっ!」
 
って、どう見てもイカレてるよな。チョーノーリョクで殺しが予知されるなんてねえ。そんな未来がほんとに来るとマジで思っちゃうなんて――いやまあホントに来ちゃったんだが、しかしそれはそれとしてだ。その当時に本気にするのは頭がどうかしてるだろう。おれが言うのも変な話だけれどもさ。
 
しかし当時のインタビュー映像など見ると、監督のス――ええとパーマー・エルドリッチが「これは現実の未来だ」とものすげー怖い顔して受け答えてるんだよな。「だが絶対に許してならない。廃止だ廃止だ廃止だ!」とえらい剣幕で怒鳴り立ててる。見たことあるでしょ。ねえ、なんなんだろうあれ……ちょっと頭がどうかしてたか、それとも完全にイカレちまっていたかであるに違いない。
 
やっぱり人間、バカになるからフィリップ・K・ディックなんか読んじゃいけないということなのだ。おれが今している話もあまりマジメに取らん方がいいよ。
 
「今の話だが、どう思う?」
 
解散して班ごとに分かれたところで班長が言った。
 
基本的におれ達殺急は四人一組で行動する。班長とその相棒にこのおれ宮本司と相棒の林零子の四人で1チームだ。班長の相棒はもちろん女。
 
おれは言った。「なるようになるんじゃないですか」
 
「バカは置いといて」
 
と班長――木村満(みつる)巡査部長は女ふたりに眼を向けて、
 
「お前らは何かあるか」
 
「厄介の種がまた増えたっていうことよね」
 
班長の相棒である佐久間(さくま)ひとみ巡査が言う。
 
「前田って子、オオヤのところなんかに入れて大丈夫なのかしら」
 
「イジメにでも遭わねえかっていうことか?」
 
「そうね。心配ないことないわね」
 
「怖いね女は。林はあるか」
 
すると零子が、
 
「プレッシャーの話っていうの気になりますね。亡くなったお母さんと御蔵島のお父さんのために頑張ろうってことでしょう。それだけ聞くといい話だけど、殺人予知特捜官っていうのはそれがプラスに働くとは限らないんじゃないかと……」
 
「だよなあ」
 
「デモシカよりゃいいんじゃないすか」
 
「黙ってろ」睨まれた。「とにかくこれは今後のシステムのあり方に関わる話だ。おれ達の責任も重大ってわけだ。やれ社会がシステムがと言ったって結局は人の問題だ。佐久間と林は女子寮では一緒になるんだろうから、まあ気にかけてやってくれ。で、ミャーモ(宮本)はなんにもするな」
 
「ハア? なんですかそれ」
 
「お前がなんかやらかすとすぐ大事(おおごと)になるだろうが」
 
なんすかそれ、と言ったところでその話は終わりになった。壁のスピーカーから声がしたのはその日の夜になってからだ。
 
『通信部より伝達。殺人事件の予見感知。ゲンジョウは厚木市。強姦殺人。後の情報は追って報せ――』