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ヘルメットの中の目

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その日はそれから先輩とタンデムで、地元の観光地を回った。
と言っても観光地巡りと言うよりは、走ることそのものと、走りながら見える景色を楽しんだ。天気が良くて、初夏の爽やかな空気を切り裂いてバイクで走る爽快さは、口では表現できなかった。走っていると言うよりは、まるで地上80センチを飛んでいるようだった。足元で激しく唸るエンジン音も、私にとっては心地良いBGMだった。
午後3時頃に古民家風のカフェでコーヒーを飲みながら休憩した。
「そろそろ帰ろうと思うけど、まだどこか行ってみたいところはある?」
先輩がそう尋ねるので、景色が良いのでわりと有名な展望台の名を伝えた。
「わかった。それじゃ、そこに行って、それから帰ろう。」
私たちはカフェを出てバイクに跨った。先輩がわたしを振り返って言った。
「その展望台、俺は行ったことがなくて行き方がわからない。だから、君のヘルメットが道案内してくれるから、それを俺に伝えてくれ。」
先輩はそう言うとエンジンをかけ、走り始めた。
「えっ、なんのこと? このヘルメットからナビの音声が聞こえるってこと?」
私は混乱して先輩に尋ねた。
「そうだ。頼むぞ。」
先輩が短く答えたとき、私の耳に女性の声が聞こえた。
「その店から正面の道を右に出て。」
私は混乱しながら先輩にそのまま伝えた。
「右に出てくれって。」
その後も私の耳に直接女性の声でルートを指示する声が聞こえた。
私は、ヘルメットの中に小型のワイヤレススピーカーがあって、バイク用のナビがブルートゥースで音声を飛ばしているのだろうと思った。バイク用のカーナビって、結構進んでいると感心した。
特に感心したのは、女性の指示の内容だった。
自宅の車で父親が運転する際に、自動車のカーナビをいつも使っているので、それと比較すると、バイク用のナビの音声はすごく自然だった。機械の合成音声感がまったくなく、ほんものの女性がしゃべっているようだった。またその内容も、その先を右とか、次の信号を左とか、普通の会話のようだった。その都度、私はその内容を先輩に伝えた。エンジン音や風切り音が大きくて、大声を張り上げなければならなかった。

作品名:ヘルメットの中の目 作家名:sirius2014