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ヘルメットの中の目

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次の土曜日、約束の時間は9時ちょうどだったけれど、私はその15分前に約束の場所の自宅の最寄り駅の駅前で先輩を待った。
9時ちょっと前に、先輩の大型バイクが駅前のロータリーに入って来るのが見えた。そのまま先輩は私を見つけ、私の前までゆっくりと走って来てバイクを止めた。エンジンを止めてバイクから降りた先輩は、バイクのヘルメットホルダーに吊るされたフルフェイスのヘルメットを取り外し、私に差し出した。私はそのヘルメットを受け取ってから、まじまじと見つめた。地味な色のごついヘルメットだった。
先輩が被っていたヘルメットは、鮮やかな色使いでデザインも華やかだった。それは、私にはまるで女性用のヘルメットのような気がした。
「先輩、私、今先輩が被っている方が好きです。」
思わず先輩にそう言ってから、しまった、と思った。ちょっと図々しいことを言ってしまったと。
先輩は、自分が被っていたヘルメットを脱いだ。乱れた髪型をばさりと直す姿が格好良かった。
「そっちは以前自分が使っていたもので、これは去年から使い始めたんだけど、こっちの方が良いならこっちを使いな。」
先輩はそう言うと、そのヘルメットを差し出した。
「すみません、私図々しかったですね。」
「いいよ、こっちの方がきれいで君に似合うだろ。」
先輩はそう言うと、私の手からヘルメットを取り上げ、自分が持っていたヘルメットを私に預けた。そして、軽い口調で付け足した。
「ちょっと“くせ”のあるヘルメットだけど、気にしないでくれ。」
私は意味がわからずに、曖昧に頷いて改めてヘルメットを見直した。右斜め後ろに、こすったような傷があった。“くせ”って、このことかな、と思いながらヘルメットを被った。
先輩は、リアシートの乗り方や、走行中や停車時の注意事項を丁寧に教えてくれた。
初めてバイクのリアシートに乗る私は、かなり緊張していたと思う。先輩に教わった通りに膝を閉じてリアシートに跨り、両足でステップを踏みしめ、片方の手でシートに張られたベルトを掴み、もう一方の手はキャリアのステーをしっかりと握りしめた。
作品名:ヘルメットの中の目 作家名:sirius2014