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コート・イン・ジ・アクト2 通り魔が町にやってくる

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「はい。ですが、あれは盛大に飲み食いしなきゃいけないんですね。『お酒一杯につまみを一品』なんていうようなタダ食いじゃ、お店の人もイヤがって警察に突き出すまではあまりしたがらないんですよ。何度やっても店をただ追い出されるだけでした」

「そうなの?」とまた言った。「まあ、人って、案外そんなもんかもな」

「へえ。遠慮しちゃいけないんだ」と零子も言う。「でも、わかっているんなら、目一杯飲み食いすればいいんじゃないの?」

「ですからそれが、お店に申し訳なくて、あたしにはできなかったんです」

「うーん」

と零子。おれも一緒に唸りながら、しかし……とふと考えていた。それでムショに行かずに済んでいるんなら、〈うまいやり方〉ってことなんじゃないのか? 今だっておれにたかってるんだし、この男には無銭飲食の才能が……。

「で、通り魔」

「はい。それなら、別に遠慮は要りませんから」

「だから、その考え方はやめろよ」

「そう言われても、予知があるから未然に止められるんですからね。誰にも迷惑かからないじゃないですか」

「おれはどうなるんだよ、おれは! おれ達に迷惑かけてんじゃないか!」

「警察はそれが仕事じゃないですか」

「もう超過勤務だよ!」

「はあ」と言った。「だったら早くあたしをムショにブチ込めばいいじゃないですか」

「わかんねえやつだなまったく。あんたのやってることは罪にならないんだよ」

「そんなことはないでしょう。いろいろと法に引っかかるはずですよ」

「うっ」詰まった。「そ、それはそうだけど……」

零子が言う。「それでもあたし達にはどうにもできないのよ。こんな事件をいちいち扱っていたんじゃあ、裁判所や刑務所がいくつあっても足りなくなるもの」

「『こんな事件』て言いますけどね、あたしのやってることは通り魔ですよ」

「だからやめろ」おれは言った。「だいたい、ほんとに人が死んだらどうするんだよ。あんた生き返らせんのか」

「だって、未然に止められるでしょうが」

「必ずそうできるとは限らないんだよ。予知は絶命の二時間前で、行為が加えられる瞬間じゃない。だからあんたが刺してから、死ぬのに二時間近くかかると、出動が間に合わなくなっちまう。死ぬのに二時間以上なら、予知はもう予知じゃない」

「そんなこと何度も聞いてわかってますよ」

「ホントにわかってるのか?」

と言った。何度言ってもわからないやつがたくさんいるんだぞ。

「それにね」と零子。「通り魔を未然に止めるのは、あたし達にも難しいことなのよ。あなたのすることを確実に止められるとは限らない。だから犠牲が出るおそれが少しでもあればあなたを殺す。あたし達はそうしなければいけないの。あなたがやっていることは、撃ち殺されても仕方のないことなのよ」

「そうだ」と言った。「だからさっき、おれはそれで怒ったんだ。あんたを殺すなんてことしたくねえから言ってんだから、口で言ってもらってる段階でやめろ」

「はあ」

と言った。そういうことができる人間であるならば、もともと今頃ホームレスなんかやってないという顔だ。

「けどあたしにとっちゃ、凍えて死ぬか撃たれて死ぬかの違いでしかないんですよね」

「ううう」

呻いた。このおっさんがさっきおれに食ってかかったときの顔を思い出す。そしてあのとき言った言葉。あたしなんか生きてたってどうせいいことないんすからね。サッサと撃って終わりにしてくださいよ――。

「じゃあなんなの。おれに殺してほしいわけ?」

「ははは、まさか、そういうわけでは」

ないんだろうな、しかし……。

どうもよくわからない。このおっさん、一体何をどうしたいんだ。いや、もちろん、刑務所に行きたいのはわかっているが、だからってなんで……。

通り魔やってムショに行こう。きっとムショでは大威張りだぞ……しかし、仮に起訴されるとして、このおっさんどんな罪状が付くんだろうか。

暴行と銃刀法違反はわかる。殺人未遂は絶対無理だ。けどそこから先はハテ、皆目見当もつかん。裁判官と検事と弁護士がヤイヤイ言って決めることだが、こんな話、連中だって悩むんじゃないか。

「とにかくさ」おれは言った。「おれもヤなんだよ、こんなことは。野良犬だって生きているのに殺す役にさせないでくれよ。頼むから通り魔だけはやめてくれって」

「そうですか。でも捕まえる方にしても、通り魔がいちばんいいと思うんですがねえ」

「どこがだ、どこが!」

「だってまず第一に、わかりやすいじゃないですか」

「『わかりやすい』!」

「犯罪としてわかりやすいでしょ。殺しが予知で防がれる時代に、止められるならどうしても止めなきゃいけない犯罪として、これはいいと思うんだけどな」

「あのな」

「ねえ。スカッとしませんか。パッと弾(はじ)けて、パッと終わる」

「お前ちっとは被害者の身に――」

「なってますよ。ほら、いるじゃないですか、事件が起きればやられた側がずっと悪かったことにして、『加害者こそがむしろ本当の被害者で』とかなんとか言う人が。通り魔ではそれがない! 被害者はたまたまそこにいただけだから、人権団体だのなんだのに人格を貶められず済むんです」

「ううううう」歯をギリギリさせた。

「ちょっと待って」零子が言った。「刺しても傷を負わせるだけで、死ななかったらどうするの。死ぬんでなければ予知されないのよ。だから未然にも防げない。被害者はヘタすりゃ一生半身不随なんてことになりかねない。そうなっても知らんて言うの?」

「そうだそうだ」おれは言った。「人間刺してもそうそう死ぬもんじゃないからな。急所を突かなきゃあ、急所を。死ななきゃかえってひどいことになるんだからこんなことはやめろ」

「ふうむ」と言った。「わかりました。間違ってもそんなことにならないように、急所を一突きにするのを心掛けます」

「わかってない!」とおれと零子。

「いや、でも大丈夫ですよ。狙うのは弱い老人や子供だし」

「やめてくれよ!」

「そんなこと言いますけどねえ、何人か刺しゃひとりくらい死ぬでしょうが。なんのための無差別通り魔と思うんですか」

「ぐぐぐぐぐ」

「だいたいですよ」とおっさんは言う。「『重大な結果を招くおそれがある』とおっしゃるなら、トットとあたしを刑務所に入れてくれりゃいいじゃないですか。それで丸く収まるんだから、みんながみんなハッピーで誰も困らないでしょう。こんなの何度も繰り返してたらそれこそケガ人が出ちゃいますよ」

「そうねえ」と零子。

「納得するな!」おれは言った。けれども、「うーん」

考えてしまう。こんなのどうすりゃいいって言うんだ?