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短編集47(過去作品)

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しき



                 しき


 孝子にとって自分の性格がどんなものかということはいつも頭の中にあった。
 分からなくなることも往々にしてあったが、大体は自分の中で把握しているつもりである。小学生まではなかなか自分というものが分からずにいたが、それは誰もがそうではないだろうか。それを意識するかしないかこそ、その人の性格であり、どうしても意識してしまうのは、孝子にとってマイナス面が大きかったのかも知れない。
 小学生の頃など意識しすぎて友達の目ばかり気にしていたように思う。他の友達が言いたいことを話しているのを見るだけで、
――羨ましい――
 と思っていて、満面の笑みが恨めしいほどであった。引っ込み持参に見えていたらしく、メガネを掛けていたこともあって、暗い女の子というイメージを植えつけられてしまった。
 しかし、本当はそんなことはない。先々を読んで行動するタイプの孝子は、自信がないことは絶対にしなかった。
――石橋を叩いて渡る――
 ということわざを聞いた時、真っ先に、
――私のことだ――
 と感じたほどだ。
 特に学校からの通学路には本当に石橋があって、何度叩いてみようという衝動に駆られたことか、本当に叩いてみるような愚かな行動はしなかったが、石橋を叩いて渡っている自分の祖方を夢で見たことは何度もある。それほど意識の中にあることわざであった。
「座右の銘は?」
 と、もし聞かれたとすれば、
「石橋を叩いて渡る……かな?」
 と答えていたことだろう。小学生で座右の銘などという言葉を使うこともないので、言われたことがなかっただけで、今から思えば一言くらい言ってみたかったと思っている。
 ある意味、「賢い娘」だったのだ。
 女の子なので、それくらいの方がいいのだろうが、冒険心を持った人が羨ましくもあった。愚かなことだと思いながらも、洞窟や、空き家になったところを探検したりする男の子たちを頼もしく思っていたのも事実である。
「あなたは、女の子に生まれて本当によかったわね」
 母親から言われたことだが、それだけまわりから見て分かりやすい性格だったに違いない。
 母親孝行でもあった。父親を早く亡くし、母親の実家に戻っていたが、祖父や祖母がそれなりにかわいがってくれるが、本当に育ててくれているのは母親であることは小学生の高学年にもなってくれば分かってくる。
――お母さんに迷惑を掛けてはいけない――
 母の実家であまり自分が自己主張をしてしまうと、母に迷惑を掛けることは分かっていた。引っ込み思案な性格はそのことが影響しているに違いない。
 一歩下がって前を見るようになると、それだけ全貌を見る力が養われるというものだ。前に出てしまうと、それだけ視界が狭くなって、しかも自分の前には誰もいないこともあって、猪突猛進になりかねない。
――もし、私が男だったら――
 と考えた時、孝子は自分が猪突猛進型になっていたのではないかと思うのだった。
 その理由は、父親を見ることで判断できる。
 父親が亡くなったのは、まさに猪突猛進が災いしたのである。詳しいことは母親が教えてくれないが、それはまだ孝子の歳では、父親の性格を正確に把握できるはずはないという考えから来ているのだろう。それだけ、父親の死に対してはいろいろな考え方ができるのだ。
 人の死がいろいろな波紋を呼ぶことは往々にしてあるというものだが、幼い子供と妻を残してこの世を去らなければならなかった父親のことを思えるようになったのは、孝子が高校生になってからのことだった。
 小学生の後半から身体に変調が起こり始め、急激に大人の仲間入りをする。身体に精神がついてくればいいのだが、なかなか精神が伴わない。それは女性だけではなく男性もそうだろう。教室にいるだけで、男と女の空気が入り混じって、時々気持ち悪さを感じることがあった孝子だった。
 孝子は自分で納得したことでなければ信じない方の性格だった。だからこそ、石橋を叩いて渡る性格だと言われるゆえんなのかも知れない。引っ込み思案に見えるのも小学生までで、中学に入ると、まわりから少しずつ一目置かれるようになっていた。
「孝子の性格って、分かりやすいように見えるけど、単純じゃないのね。そこが皆から一目置かれるところなのかも知れないわ」
 分かりやすい性格が単純な性格であるという構図はそれこそ単純な考えである。なるべく自分で納得するまで表に出したくないという意識があるから引っ込み思案になるのであって、そのことを意識しないでもいい歳になってくると、今度はまわりから分かりやすく見られるようだ。人の性格とは、かくも面白いものである。
 中学生になると、彼氏がほしいと思うようになってきた。他の女の子と変わらぬ意識である。だが、まわりの女の子が騒いでいるようなアイドルやスポーツ選手のような人を好きになったりはしない。あまりにも現実離れしているからだ。
「現実離れしているからいいんじゃない。夢を見る年頃ってやつでしょう?」
 と友達は嘯いていたが、それも理解できないわけではない。
――想像力が豊かすぎるのかも知れないわ――
 想像力が豊かであれば、他の女の子のようにアイドルを追いかけてもよさそうだが、孝子の場合はそうではない。
――自分と一緒にいるところを想像できるような人でないといけない――
 と感じる。相手がアイドルともなれば、あまりに現実離れしていて、想像するに至らない。かといって、誰かと一緒にいる自分は想像できても相手の男の顔はシルエットになっている。だからこそ、早く彼氏がほしいと思うに違いない。それが孝子の考えだった。
 その思いがきっと表に出ているのだろう。
――ミーハーは大嫌い――
 というのが表に現われているようだ。
「孝子の目はいつも涼しそうだけど、何を見ているのかしらね」
 友達も冷静な目を持っている人が多いが、その中でも孝子は分かりやすい性格のようだ。だが、分かりやすいだけに、涼しそうな眼をしていると、却って何を考えているのか、何を見つめているのか分からないようだ。そのことを友達は言っているのだろう。
 成長していくうちに、次第にそんな性格であることを忘れてくるようになっていた。それだけまわりが急激に変化しているのだろうが、その中で自分が変わりたくないという意識が強いこともあって、なるべくいろいろなことを考えないようにしていったのかも知れない。
 短大に進む頃には、他の女の子と差がなかったように思う。別に目立ちたいとも思わないし、かといって、引っ込み思案ではない。自然体が一番自分に似合っていることを悟ったのかも知れない。
 短大を卒業すると、家の近くにある保険関係の会社の事務所に勤務するようになった。事務所には営業レディが数名と、それに支店長、支店長補佐の男性、そして、事務員が孝子を含めて二名、実にこじんまりとした事務所だった。
 入社してすぐに、営業レディと同じ研修を受け、適正の問題で事務をするようになったが、
――私にはこっちの方が似合っている――
作品名:短編集47(過去作品) 作家名:森本晃次